相続といってもいろいろなケースがあります。
被相続人が亡くなったとき、子も親も兄弟もなく、遺されたのが配偶者一人だけという場合や、配偶者に先立たれ、子供一人だけが相続人になった、という場合などは、財産の「分け前」は問題になりません。相続人が一人しかいないのですから、その人が全財産を相続するだけです。

しかし、私たちの回りに起こる相続のほとんどの場合、相続人は二人以上ではないでしょうか。
たとえば、配偶者に子が数人の場合や、被相続人が再婚していれば、先妻の子と後妻の子がいる場合もあるでしょうし、もしかすると婚外子(非嫡出子)がいるような場合もあるかもしれません。

 

相続分は相続人の権利の割合

こんな場合、問題になるのが各相続人の相続分です。
「相続分」とは、それぞれの相続人が持っている、遺産に対する権利の割合をいいます。
ところで、相続分も法律で定められているということはご存じでしょうが、ではその種類がいくつあるのでしょうか。

法律で定められた相続分というと、一つしかないように思えますがそうではなく、下記のとおり民法では、5つの相続分の種類にわけられます。

➀法定相続分
➁代襲相続分
➂指定相続分:遺言書で指示された相続分で、法定相続分に優先する。
➃特別受益者の相続分:生前に財産贈与や遺贈を受けた人の相続分
➄寄与分:被相続人の財産形成に特別の寄与をした相続人に与えられるもの

➀、➁は遺言書がない場合の相続分で、この2つが一般的な遺産配分基準となる、通常は、この2つを併せて法定相続分と呼んでいる。

法定相続分からみてみると

一般に、相続分、という場合は「法定相続分」を指していることがほとんどではないでしょうか。
相続については、被相続人の意思が優先されますから、遺言で相続分を指定しているとき(これを指定相続分といいます。)は、法定相続分に先立って適用されることになります。

しかし、遺言のない相続の方がケースとしては多く、この場合は民法が被相続人の意思を推定して相続分を定め、これによって相続することとされています。

これを法定相続分といい、その割合は、下記のとおりです。

➀子と配偶者の場合:配偶者1/2・子1/2 ※子が数人あるときは、相続分は均分(頭割り)となる。
➁配偶者と直系尊属の場合:配偶者2/3・直系尊属1/3 ※直系尊属が数人あるときは、相続分は均分になる
➂配偶者と兄弟姉妹の場合:配偶者3/4・兄弟姉妹1/4 ※兄弟姉妹が数人あるときは、相続分は均分となる
※父母の一方を同じくする兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)の1/2となる。

非嫡出子の相続分の法定相続分は?

(900条4号は非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1であると定めていた。
この規定が、憲法14条の定める「法の下の平等」に反しないかは論争されてきた。

そして、最高裁はこの規定について、子供は婚外子かどうかを選ぶことはできず、それによって子供が差別されるようなことはあってはならないとして平成25年9月4日に違憲判決を下しました。その結果、平成25年9月5日以後に開始した相続については、嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等にしました。因みに「嫡出でない子」とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいいます。

【事例1】遺産額を6,000万円とし、子(3人)と配偶者が相続人の場合の法定相続分の額
配偶者:6,000万円×1/2=3,000万円
長男:6,000万円×1/2×1/3=1,000万円
長女:(長男に同じ)=1,000万円
次男:(長男に同じ)=1,000万円

【事例2】遺産額を6,000万円とし、配偶者と直系尊属(父母)が相続人の場合の法定相続分の額
配偶者:6,000万円×2/3=4,000万円
父:6,000万円×1/3×1/2=1,000万円
母:(父に同じ)=1,000万円

【事例3】遺産額を6,000万円とし、配偶者と兄弟姉妹(2人)が相続人の場合の法定相続分の額
配偶者:6,000万円×3/4=4,500万円
兄:6,000万円×1/4×1/2=750万円
妹:(兄に同じ)=750万円

 

先妻の子と後妻の子に相続分の差はない

被相続人に先妻と後妻があり、いずれの間にも子がいるケースでは相続分はどうなるでしょうか。
うっかりして、先妻との子は後妻の子より相続分が少ないなどというと、思わぬ感情的なトラブルが生じます。

先妻との子、後妻との子のいずれも「嫡出子」であることに変わりはありませんから、相続分は全く均等です。
したがって、仮に遺産額を6,000万円とすると、各自の相続分は下記のとおりになります。

【事例4】遺産額を6,000万円とし、配偶者(後妻)と、先妻との間の子(2人)と後妻との間の子(1人)が相続人の場合の法定相続分の額
配偶者(後妻):6,000万円×1/2=3,000万円
長男(先妻の子):6,000万円×1/2×1/3=1,000万円
長女(先妻の子):(長男に同じ)=1,000万円
次男(後妻の子):(長男に同じ)=1,000万円
※先妻は生きていても相続時に配偶者ではありませんから、相続権はありません。

 

半血兄弟は相続分が少なくなる

現在の民法は、「均分相続」が建て前ですから、兄弟姉妹間についても、本来同等の相続分となるのが原則です。
ところが「全血兄弟」と「半血兄弟」との違いが問題となります。

「全血兄弟」とは、父母の双方を同じくする兄弟のことをいうのに対し、「半血兄弟」とは父母の一方だけが同じ兄弟のことをいいます。所謂、腹違いの兄弟もこれに当たります。この場合の相続分は、全血兄弟が2であるのに対し、半血兄弟はその半分の1という割合になります。

【事例5】遺産額を6,000万円とし、配偶者と弟と妹、及び父の先妻の子である兄が相続人の場合の法定相続分の額
配偶者:6,000万円×3/4=4500万円
弟(被相続人の全血兄弟):6,000万円×1/4×2/5=600万円
妹(被相続人の全血兄弟)(弟に同じ)=600万円
兄(被相続人の半血兄弟):6,000万円×1/4×1/5=300万円

 

代襲相続人がいる場合の相続分は

代襲相続については、①被相続人の子が先に死亡して孫が相続人になるケースと、②相続人になるはずであった兄弟姉妹が先に死亡し、その子、つまり甥や姪が代襲相続人になるケースの2つがあります。

代襲相続人の相続分は、本来相続人になるべきであった人(被代襲者)の相続分を、そのまま受け継ぎます。
この場合、代襲相続人が二人以上あるときは、被代襲者の相続分を頭割りによって算出します。

【事例6】遺産額を6,000万円とし、配偶者と子(長女)及び孫(長男の子2人)が相続人の場合の法定相続分の額
配偶者:6,000万円×1/2=3,000万円
長女:6,000万円×1/2×1/2=1,500万円
孫A(長男が死亡したことによる代襲相続人):6,000万円×1/2×1/2×1/2 =750万円
孫B(長男が死亡したことによる代襲相続人):(孫Bに同じ)=750万円

【事例7】遺産額を6,000万円とし、配偶者と妹及び甥姪(兄の子2人)が相続人の場合の法定相続分の額
配偶者:6,000万円×3/4=4500万円
妹:6,000万円×1/4×1/2=750万円
甥(被相続人の兄が死亡したことによる代襲相続人):6,000万円×1/4×1/2×1/2=375万円
姪(被相続人の兄が死亡したことによる代襲相続人):(甥に同じ)=375万円

 

生前に贈与を受けた人の相続分は修正される

父親が亡くなり、相続人は長男と二男の二人だけ。
遺産が1億円であるとすれば長男と次男の法定相続分は2分の1ずつで、それぞれ5,000万円を相続することになります。

ところが、長男だけが被相続人から生前に2000万円の財産を贈与されていたとするとどうでしょう
1億円の遺産を単純に2分の1で分けると、一方で長男は被相続人の生前と死後を合わせて7,000万円の財産を取得することになりものの、二男は相続での5,000万円だけです。

これが平等といえるかどうかは、家庭の事情や長男が生前贈与を受けたいきさつを聞いてみなければわかりませんが、二男からしてみれば、「兄貴は相続で少しは我慢しろ」と文句の一言も言いたくなるでしょう。
そこで、民法では、「特別受益の相続分」と呼ばれる規定を設け、次男の気持ちを配慮することにしています。

この場合の特別受益者とは、生前に贈与を受けた長男のことで、2,000万円の贈与分を遺産額(1億円)に加え、これを法定相続分で配分したあと、長男の相続分からその贈与分を差し引いて、その相続分とするものです。

 

【事例8】遺産額を1億円とし、長男と二男が相続人であるが、長男が生前に被相続人から2,000万円の生前贈与を受けていた場合の法定相続分の額

➀遺産額に特別受益を加える:1億円+2,000万円=1億2,000万円

➁・➀の金額を法定相続分で配分する。
長男 1億2,000万円×1/2=6,000万円
二男 (長男と同じ)=6,000万円

➂特別受益者の相続分からは特別受益分を差し引き各相続人の法定相続分の額を確定させる。
長男 6,000万円-2,000万円=4,000万円
二男 6,000万円

 

寄与分制度とは

兄弟でも均等に相続できない場合もあります。農家の相続を考えてみましょう。
長男は、高校を卒業してすぐに父親の農業に従事し、それから30年近くもコツコツと働いてきました。
一方で二男は、大学まで行き、都会でサラリーマン生活。年に一度、手土産を持って父親の顔を見に帰るだけです。

さて、父親が亡くなり、遺された財産は5,000万円。そのほとんどが、田や畑など農業用財産です。
こうしたケースで、長男と二男が均等に相続するというのははたしてどうでしょうか?
都会でサラリーマンをしている二男が農地を相続するのも困ったことですが、それ以上に問題なのが長男の相続分です。

父親が財産を遺せたのも、要は長男が一生懸命に農業をしていたからこそです。したがって、遺産の名義は父親であっても、その中には相当程度、長男の労働分も含まれているとみることができます。子の相続分は均等とはいえ、5,000万円の遺産の半分は二男のものとなれば、今度は長男から文句が出てきそうです。

そこで設けられているのが、寄与分の制度です。すなわち、相続人の中に、被相続人の財産の増加や維持に特別の寄与をした人がある場合には、遺産の配分にあたり、寄与分として別枠で遺産を相続できるというものです。
したがって、長男の寄与分が仮に1,000万円とすると残り4,000万円を長男と二男で相続分に従って配分することになります。

寄与分は相続人間の相談で決める

寄与分をいくらかとするかは、相続人間の協議で決めるのが原則ですが、協議がまとまらないときは、寄与相続人の請求により、家庭裁判所で決めてもらうこともできます。
寄与分制度も、特別受益の相続分と同様に、法定相続分の一部を修正して、相続人同士の実質的な公平を図っているものです。

本件のように「特別受益」や「寄与分」は、デリケートな手続きになるでしょう。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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