不動産売却後にかかる税金は?
「遺産相続なんて、まだ先の話。だって親はまだまだ元気だし」「遺産相続を考えるなんて、縁起でもない」「遺産なんて我が家にはそんなに無いし、家族は仲がいいから問題にはならない」と、相続について考えることや話題にすることを先延ばしにしていませんか?残念ながら、肉親の死は思いもよらない時にやってくることがあります。そこで直面する家族を亡くした喪失感。しかしその後には、遺産相続という問題に対処しなければなりません。これまでは他人事だと思っていた遺産相続。それが急にあなたの身近な問題になることもあり得るのです。
遺産の中でも大きなウェイトを占める土地や家の相続。賃貸物件を建てるのもいいでしょう。でもそのためには建設費や維持管理費がかかります。一方、土地をそのまま放置しておくと維持費、固定資産税や都市計画税がかかります。ではもし売却したら?現金化することにより、残された遺族(=以下「相続人」)が平等に分割、相続しやすくなりますね。ただし、土地や家を売却した場合にも、税金がかかることをお忘れなく。ではその税金は何がどのくらいかかるのでしょうか。
遺産相続した土地や家を売却した場合にかかる税金は、「売買契約」に関する「印紙税」や、「譲渡所得」にかかる「譲渡所得課税(所得税・復興特別所得税・住民税)」があります。一つずつみていきましょう。
まず「印紙税」は不動産を売却する「売買契約書」を作成する時にかかるものです。売買する金額によって、印紙税も変わります。以下の表をご覧ください。不動産の譲渡に関する契約書のうち10万円を超えるもので、平成32年3月31日までに作成された場合には印紙税の軽減措置がとられています。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円を超え 50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え 100万円以下のもの | 1千円 | 500円 |
100万円を超え 500万円以下のもの | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
参考:国税庁ホームページ https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/08/10.htm
さて次は「譲渡所得課税(所得税と住民税)」です。不動産を売却して利益(売却益)が出ると、「譲渡所得課税」の課税対象になり、所得税と住民税がかかります。譲渡所得にかかる税額は下の表のように計算されます。「売却(譲渡)価格」から「取得費(=土地・家屋購入代金+購入時に支払った仲介料、印紙代など)」と「譲渡費用(譲渡にあたって支払った仲介手数料、印紙代)」を引き、その結果として出る売却益(以下=「譲渡所得」)に税率をかけるのです。
この税は仮に相続した不動産の「売却価格」が、「取得費」+「譲渡費用」よりも低い金額の場合には譲渡所得が発生しないので、譲渡所得課税もかかりません(=非課税)。逆に、一般的には嬉しいことなのですが、購入時よりも非常に高い価格で売れた場合に、「譲渡価格」から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いても、まだ利益が残る場合もあります。その時には「譲渡所得あり」として所得税と住民税がかかります。なお、購入時の価格が分からないときには、売却価格の5%を取得費として計算します。また購入時の価格が売却価格の5%よりも安かった場合でも、売却価格の5%を取得費とすることができます。
では譲渡所得税はどのように計算されるのでしょうか。以下に例をあげます。
これは5年を超えて所有していた不動産を売却した場合の「譲渡所得税」です。
売却価格 | 「譲渡所得」=「売買(譲渡)価格」-(「取得費」+「譲渡費用」) これが売却益となります。 | 譲渡所得税 売却益×税率15% → 住民税*1 ×税率 5% → 所得税*1 |
「取得費」購入価格*2 と、購入時にかかった仲介手数料、印紙代など | ||
「譲渡費用」売却にかかった仲介手数料、印紙代など |
*1 税率は売却する不動産の保有期間が5年以上の場合
*2 建物の購入価格からは減価償却分が差し引かれる
譲渡所得税は、その不動産の所有者になってから売却した年の1月1日までの保有期間によって変わります。5年を超えるか、5年以下なのかで大きく税率が違います。
●物件の保有期間が5年を超す「長期譲渡所得」の場合
課税譲渡所得金額 × 15%(所得税) =譲渡所得税額
5%(住民税)
- 物件の保有期間が5年以下の「短期譲渡所得」の場合
課税譲渡所得金額 × 30%(所得税) =譲渡所得税額
9%(住民税)
ここでいう保有期間とは、相続した土地・建物を売却する場合には、相続人がその物件を取得した日からではなく、亡くなられた方が、その不動産を取得した日からをカウントして、保有期間とします。また「取得費」についても、亡くなられた方が支払った分を相続人が引き継ぎます。なお、平成25年から平成49年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。
相続後の売却で使える特例
このように、「相続した家や土地を売却した価格」>「被相続人が支払った価格+仲介手数料(=取得費)」の場合には、「利益があった」とみなされて、その差額に対して譲渡所得課税がされます。つまり売却価格と被相続人が支払った取得費の差が大きくなると、相続人が支払う税額も高くなるのです。
うちは関係ないよね、と思っていませんか?実は関係あるかもしれません。特に都心や再開発で人気になったエリアに相続するご実家がある場合。亡くなられた方が購入したのは遥か昔で、その時の金額は今よりもずっと安かった。ところが周囲の地価が上昇していて、予想よりも高く売れてしまった場合。また亡くなられた方が不動産を購入した頃の資料が残っておらず、価格が不明のため、亡くなられた方が支払った取得費が売却価格の5%と計算されてしまった場合。いずれも税額が多くなりがちです。できれば収める税金は低くしたいですね。そこで特例を使って賢く節税をする方法をご紹介します。
それは、相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)を適用させることです。この特例は、相続により取得した土地や建物などを、一定期間内に譲渡した場合には、相続税額のうち一定金額を、譲渡資産の取得費に加算することができる、というものです。
ここでいう「一定期間」とは相続税の申告期限から3年以内です。この期間に売却すれば、売却価格から取得費や譲渡費用のほかに、売却した土地や建物に対する相続税額の一部を加算できるのです。結果的に課税対象になる譲渡所得が少なくなり、節税ができます。
参考:国税庁ホームページhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
3 相続後の売却は3年以内に
2のように、相続により土地や建物を取得して、それを売却する場合には、相続税の申告期限から3年以内に売却すれば、相続税の一部を売却価格から差し引く、という特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)が適用され、節税になります。
数字を簡素化して以下の表で説明します。
計算はA-(B+C+D)=Eです。
売却(譲渡)価格 A | 取得費(土地建物の購入費) B | 譲渡費用(手数料など)C | 特例による取得費の加算 D | 譲渡所得金額(=課税対象金額)E | |
1.特例適応の場合 | 100 | 30 | 5 | 20 | 45 |
2.特例なしの場合 | 100 | 30 | 5 | なし | 65 |
1.と2.の差 | 0 | 0 | 0 | 20 | 20 |
このように1.は2.よりも課税対象金額Eが低くなり、節税をすることができるのです。
この特例をうけるための条件は以下3点です。
1,その特例を申請する人が相続や遺贈で財産を得た場合。
2,特例を受ける人に相続税が課税され、支払っている場合。
3,相続税の申告期限から3年以内に土地や建物の売却を済ませた場合。
1,はこの記事を読んでいるみなさんの多くが該当することでしょう。2,の相続税の申告や納付は、相続開始の日の翌日から10ヶ月以内に行わなくてはなりません。3,はさらに2,の申告期限から3年以内に相続財産を売却することが必要になります。
この特例を受ける手続きは、確定申告をすることが必要です。確定申告書には、1、相続税の申告書の写し、2、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、3、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書などの添付が必要です。このうち2、の計算明細書を利用すると、取得費に加算される相続税額を計算することができます。確定申告は、自分から行わなければ、税務署から通知が来るわけではありません。忘れずに行うようにしてください。
参考:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
相続した家を早く売りたい人向けの7つのポイント
3で紹介した相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を受けるためにも、相続した不動産を早く売却したい、という人もいることでしょう。相続した土地や家を早く売却するためには、不動産買い取り業者に買い取ってもらうか、市場より安い価格で売りにだすことです。ただ、それでも最善の結果を得たいのが人間。急いで売りたいけれど、ぞんざいにはしたくない。そんな方のために、いくつか抑えておきたいポイントがあります。以下、7点にまとめました、
1.市場価格の8掛けから9掛けで売りに出す。
相続したということは、思い出のある土地や建物の可能性もありますね。これを安く売ることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。けれども、市場価格や周辺の成約価格と同様、もしくは少し安くするだけでは、なかなか買い手はつかないでしょう。しかし、ここで市場価格の8掛けから9掛けで出すと、周辺の同様な物件に比べてぐっと値ごろ感があがり、問い合わせが多数来ることが予想されます。ずっと粘って、結局当初希望価格の7掛け程度になってしまった、というケースも珍しくありません。期日が迫っている時には8掛けから9掛けを考慮してみてください。
2.不動産の買い取り業者に声をかける
一般的に不動産の買い取り業者は決済が早く、売り急いでいる方に向いています。不動産会社の買い取り制度を利用すると、仲介で買い手を探すのではなく、不動産会社が直接買い取ってくれます。最短で1週間から、長くても1か月で決済をしてくれることが一般的です。またこの方法では近所に知られず売却できるのもメリットです。仲介手数料も一般的に不要です。(直接の売買ではなく、買取先を紹介してもらった場合には手数料が発生することがあります。)
3.仲介会社の「早く売れる」査定金額にする
仲介会社と媒介契約をすると、売り主にとって魅力的なフォローがついてくることが多いのですが、注意しなければならない点があります。それは仲介会社の査定価格が必ずしも「売れる金額」ではない場合があることです。特に時間に制限がある場合には、高い査定金額を出してくれた仲介会社=良い会社、とは言い切れません。どれだけ売却に時間がかかるかわからないからです。そこで仲介会社に査定を依頼する時には「早く売れる金額」を出してもらいましょう。そして、複数の仲介会社の中からその「早く売れる金額」とフォロー体制を見比べて決めます。決めたらその査定金額で売りに出しましょう。
4.売却期限による使い分け
売却期限によって、不動産買い取り業者にするか、それとも通常の売り出しにするかを使い分けることもできます。
売却期限 | 売り方 | 売値 |
1週間から1か月以内に決済 | 不動産買い取り業者 | 市場価格の8掛けまたはそれ以下 |
1か月から3か月後までに決済 | 不動産買い取り業者または通常の売り出し | 市場価格に近付く可能性 |
半年後から一年後までに決済 | 通常の売り出し | 市場価格に近い |
この時、1か月後から3か月後までに決済をしたい場合には、通常の売り出しと並行して不動産買い取り業者を利用します。それは1か月から2か月以内に通常の売り出しで購入希望者が見つからない場合、通常の売り出しを諦めなくてはならないからです。というのも通常の売り出しの場合、個人が買い主になると住宅ローンの手配があります。そのために物件の申し込みから決済までは少なくとも1-2か月必要になり、期限に間に合わないからです。
5. リフォームをする
リフォームをしてから販売をすると、一戸建てやマンションの場合には内覧者の印象が良くなり、早く売れる可能性が高まります。
売り急いでいる場合のリフォームは、低予算で短い工期でなければなりません。費用と工期がかかる全面的なリフォームでなくとも、次のようなリフォームは可能です。
・一部の床や壁、天井の張替え
・クリーニング、掃除、照明器具の交換、庭木の剪定
これでしたら費用は数万から数十万円で、かかる期間は数日から1週間程度でリフォームができます。リフォームに使った費用は設備費や改良費として不動産取得費に計上できます。
6.隣地や賃借人に売る
居住用の不動産の場合には、隣地の方や現在の借り手に売るということも考えられます。隣地の方は家族のために広い土地を求めているかもしれません。さらに借り手がいる場合は、購入するつもりがないか交渉する価値はあります。今後住み続け、契約更新を続けていく予定であれば、賃貸料を払い続けるよりも買う方が借り手にとってメリットがある場合もあります。
7.購入希望者の指値を断らない
物件の内覧に来てくれたお客さんが指値を入れて申し込みや買い付けを希望してくることもあります。ある程度の値段交渉には応じてみましょう。購入希望者は、ほぼ必ず仲介手数料や物件価格の値下げ交渉をしてきます。
しかしその購入希望者によって対応を分けた方が良いでしょう。
・個人の飼い主の場合=数十万円程度の値引き交渉なら応じてみましょう。買い主に対して、こちらの都合に沿った契約や決済の条件を付けやすくなる場合があります。
・投資家の場合=大幅な値引きや低い指値を入れてくる場合、金額によっては断りましょう。投資家は利回りの良い物件を探しているだけです。無理に交渉する必要はありません。
まとめ
せっかく相続をした土地や家屋。実家であれば、懐かしい思い出もたくさんあることでしょう。それにかかる税金は制度を利用して賢く節税することが、残してくれた人への恩返しになるかもしれません。不動産の売却や相続の手続きについて、不安なことがあったらそのままにせず、弁護士に相談してみましょう。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。