Q:債務や葬儀費用は相続財産から差し引けるそうですが、その時の注意点はありますか?
A:債務は、被相続人が死亡したときに確実に負担しなければならないものしか引けません、墓石や墓地の購入費用は葬儀費用に含まれないので誤解しないようにしましょう。
債務は比較的幅広く控除できる
相続税の計算では、課税価格(遺産総額)を算出する際に、相続財産から被相続人の債務や葬儀費用を差し引くことができます。ただし、債務だと思っても、実際は債務の範囲に含まれなかったり、葬儀費用とみなされなかったりする費用もあるので注意が必要です。
まず債務ですが、基本的に被相続人が死亡したときに存在した債務であり、被相続人が借りていた事業のローンは相続時点の残高を債務として差し引くことができます。
住宅ローンは注意が必要です。通常、団体信用保険がついていて、相続発生と同時に保険から残債が支払われて借入金が消滅しますから、債務控除はできません。
連帯債務については、借入金残高に負担割合をかけたものが控除金額となります。
保証債務は少々厄介です。被相続人が他人の借入金の連帯保証人になっている場合は、相続にともなって保証人の立場は相続人に承継されます。しかし、相続税では、相続時点で債務が確定している場合に限って債務控除の対象になります。例えば、主たる債務者が返済不能であるため債務を履行し、かつ主たる債務者から金額を回収する見込みがない場合などに限定して債務控除が認められます。
単に保証債務があるだけで、債務履行が実現していない場合は控除できません。
相続時点で支払うことが確定しているが、未払いの税金も差し引くことができます。
例えば、固定資産税は1月1日に土地、建物などの所有者に支払い義務が発生しますが、被相続人が3月に死亡した場合は差し引くことができます。また、所得税は年末に支払い義務が確定しますから、年の途中で死亡した場合は控除できます。
生前の入院費用を相続発生後に支払った場合も、相続時点では未払い金なので控除対象となります。
また、被相続人が不動産賃貸業を営んでいた場合で、入居者から預かった敷金や保証金のうち、将来返還が必要な部分も差し引くことができます。
こう見ると、債務控除の対象となるものは比較的多くあります。被相続人の遺品を整理する中で、金銭消費賃借契約書や税金の支払い通知書などはチェックしましょう。
一方、葬儀費用は相続が発生した時点では債務ではありませんが、通常は相続財産から支出されるため、課税価格を算出する上で相続財産からさ引くことができます。
墓地・墓石の費用は差し引けない
「差し引ける」と誤解しているものも多いので注意しましょう。
「差し引ける」と誤解が多いのは、香典返しの費用、初七日以降の法事費用です。また、墓地や墓石を購入したり、墓地を借りたりするための費用も差し引くことはできません。仏壇、仏具の購入費用も控除対象になりません。
差し引けるのは、葬儀に直接かかったと認められる費用です。具体的には、斎場使用料や葬儀会社に支払う費用、斎場に行くためのタクシー代、バス代などの交通費、寺院に支払う読経料、戒名料、お布施などです。通夜や葬式での飲食代も差し引くことができます。
なお、債務や葬儀費用と同様に、課税価格の計算上、相続財産から差し引けるのが非課税財産です。
非課税財産の代表は死亡保険金や死亡退職金などで、相続税の計算上はみなし相続財産となりますが、いずれも「500万円×法定相続人の数」の金額は非課税となり、相続財産から控除できます。
このほか非課税となるのは墓地や仏壇といった祭祀のための財産です。非課税財産として差し引けますから、葬儀費用としては控除できないのです。
ただ、仏具の中には、例えば純金で高額なもののように、相続税の課税逃れを意図したとしか思われないようなものもなくはありません。この場合は、実際に祭祀用なのか単なる財産の保全のためなのか、税務調査の対象になる可能性があります。
債務、葬儀の費用の注意点
債務
・差し引くことができる債務(税金、借入金、未払い金、買掛金など)は被相続人が死亡したときにあった債務で確実と認められるもの
・保証債務については、主たる債務者が弁済不能であるために債務を履行し、かつ主たる債務者からその金額を回収できる見込みがない時、また連帯債務については、負担すべき金額があきらかになっている部分について差し引ける
・相続人などの責任に基づいて納付したり、徴収されることになった延滞税や加算税などは差し引けない
・被相続人が生前に購入した墓石や墓地の未払代金など非課税財産に関する債務は差し引けない
葬儀費用
●差し引ける
・通夜、告別式にかかった費用
・葬儀に関連する料理代
・火葬料、埋葬料、納骨料
・遺体の搬送費用
・葬儀場までの交通費
・お布施、読経料、戒名料
・その他通常葬儀に伴う費用
×差し引けない
・香典返しのためにかかった費用
・墓石や墓地の購入にかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用
・位牌、仏壇の購入費用
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
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