民法改正試案 配偶者の遺産相続拡大

平成28年6月21日、法制審議会(法相の諮問機関)の民法(相続関係)部会は、遺産分割について、婚姻後に一定期間が経過した場合に配偶者の法定相続分を2分の1から3分の2に引き上げる案などが柱となっている民法改正などについて、中間試案をまとめたというニュースがありましたね。

相続に関する規定の見直し自体は、平成27年2月、当時の上川陽子法務大臣が法制審議会に諮問しました。高齢化社会の進行で相続をめぐるトラブルの増加が予想されることから、国民の意識や実情に即して相続法制を見直す必要があると判断しています。
今回は、上記民法改正案と現行の法律と比較して簡単にお話をしたいと思います。

 

妻(夫)の遺産相続の割合が増える?

配偶者の相続は、昭和55年の民法改正までは3分の1でした。それ以降は、現在の2分の1に引き上げられましたが、それ以来は変わっていません。

そこで今回の試案では、婚姻期間が長く、財産形成に配偶者の貢献が大きいと考えられる場合は、配偶者の相続分を増やす見直しが盛り込まれました。
試案では、➀相続財産が婚姻後に一定割合以上増加した場合、配偶者の相続分を増やす。
➁婚姻後一定期間(20年または30年)が経過した場合、法定相続分を増やす。など複数案が記されました。

現行の法律では、婚姻期間の長短にかかわらず、法定相続分は一定です。

➀の案は、『一定割合以上増加した場合』と言うのが、増加の証明を巡って他相続人と争いがおきては意味がありませんから、具体的に何割以上なのか、何をもって財産が増加したと判断するのかは慎重に議論されるべきと考えます。

➁の案は、婚姻後一定期間が経過した場合の配偶者ですから、ご相談の多い争う相続、亡くなる直前に婚姻関係を結んだ配偶者に対しての相続には影響を与えません。

そして子供のいない家庭が増えている現代では、配偶者の死亡によって、相続人が配偶者と被相続人の両親や兄弟姉妹に相続が発生するケースが増えています。現行の法律では、子供はいないが被相続人の両親または兄弟姉妹がいる場合、遺言書などが無ければ、直ちに配偶者が100%相続するとはなりません。参考に下記に、法定相続の割合を記載しておきます。

相続人が配偶者のみの場合、配偶者が100%。
相続人が配偶者と子供の場合、配偶者が2分の1、子供が2分の1(子が複数いる場合は、均等に分割)
相続人が配偶者と父母の場合、配偶者が3分の2、父母が3分の1(両親とも健在の場合は、均等に分割)
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1(複数の場合は、均等に分割)

(民法第900条)
このことを知らずに相続で争うことになる方が非常に多いため、過去のコラムでも遺言書についてふれさせていただきました。
遺言書や法定相続のことを知らないまま、配偶者に全て相続させたいと考えている子供のいないご夫婦は、婚姻期間を考慮して配偶者の相続分が増えるとなれば、助かる方が多かれ少なかれいらっしゃるのではないでしょうか。

 

相続人以外の人が介護に貢献したら金銭を請求できる?

相続人以外の人が介護などで献身的な貢献をした場合、相続人に金銭の請求ができる案も出ました。
現行の法律では、相続人以外の寄与分は認めていません。
例えば、相続人となる次男の嫁が、付きっきりで長男の母を看病したとしても相続人になることも、寄与分を請求することも出来ません(民法第904条の2)。
(※事例によっては、相続人以外の方の寄与行為を相続人の寄与分として主張する場合もあります。)

相続人となる親族が親の扶養を行わず、相続人以外の方が何十年も面倒を看た様なケースなど、金銭的に何も貰えなかった方が相続人に対し請求を申立てる日がくるかもしれません。
それで救われる方もいれば、この請求を原因に配偶者同士が争うなど新しいケースも発生することが考えられ複雑なところです。

 

夫(妻)が死んだ途端、家から追い出される様なことがなくなる?

相続による権利の変動で、配偶者がこれまで住んでいた建物から即時退去を迫られるケースに対応する方策も明記されました。
配偶者の居住権保護の観点から、遺産分割終了まで(例えば6ヶ月)住み続けることができる「短期居住権」の設定や、終身・一定期間などの「長期居住権」を設け、遺産分割時の選択肢の1つとする案です。

これまでの遺産分割協議では、夫(妻)が亡くなり、その後も継続して住みたいと希望した際に、他の相続人から法定相続分での分割を主張され、現金などの準備や交渉が出来ず、結果的に退去せざるを得ない状況になる方がいます。
ですから、上記のような居住権を法律的に設けることができれば交渉の選択肢が増えるかもしれません。

 

最後に

時代の移り変わりにより、家族のあり方も変わるように、相続をめぐるトラブルも多岐多様にわたります。
家督相続が廃止された様に、現代の新たな相続のあり方に直面しているのだと感じます。
当センターでは、相続に関するご相談を無料で承っております。お気軽にご相談下さい。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。