人が亡くなった後、その人の財産を渡す方法として、相続、遺贈、死因贈与という3つの方法があります。そのうち死因贈与は“死んだら私の財産をあげるよ”と言った内容の契約です。
本当にそのような契約をすることは可能なのでしょうか?
死因贈与とはどのようなものなのか、また、遺贈とはどう違うのかなど、詳しくみていきましょう。
生前に交わす契約、死因贈与
死因贈与とは、贈与者の生前に交わす贈与契約の事です。
財産を与える側の「贈与者」の死亡を条件として「私が死んだら受贈者に○○を与える」といった意思表示について、財産を受け取る側の「受贈者」が「あなたが亡くなったら○○をもらう」と贈与の受け取りに同意をすることで、成立します。
●負担付死因贈与
負担付死因贈与とは、受贈者に対して「贈与者の生前に○○をしてくれた場合に○○を与える」など、受遺者に対して負担を課す形式の死因贈与です。
例えば父が長男に対して「自分が亡くなるまで介護をしてくれたら、長男に自分が持っている不動産をあげる」など、受遺者である長男に、介護という負担を課す代わりに財産をあげる事を契約するといったものです。
死因贈与と遺贈の違いはほんの少し
まず、遺贈についてですが、遺贈とは遺言によって法定相続人以外の人にも財産を与えたい場合に用いられる財産の処理方法です。法定相続人とは、法定相続(民法で定められた財産の取り分のこと)を受けられる人のことです。つまり、自分の配偶者や子供以外の第三者にも財産を遺してあげられる方法となります。
死因贈与も同じように、法定相続人以外の人に財産を遺してあげることができます。
では、遺贈と死因贈与はどのような違いがあるのでしょうか?
●効力を発生させるには
【遺贈の場合】
遺贈は遺言書によって、効力を発生させます。
そして、遺贈は単独行為となりますので、受贈者の承諾は必要ありません。
【死因贈与の場合】
死因贈与は、贈与者の意思表示と、受贈者の同意によって成立します。
ですので、贈与者1人が「私が死んだら○○に○○を贈与する」と言った契約書を作成したとしても、受贈者の同意が無い限り、効力は発生しないという事です。
●遺贈の準用
遺贈と死因贈与の効果の発生の条件は異なりますが、どちらも贈与者の死亡によって効果が生ずるという点は共通しています。そのため、死因贈与は遺贈の規定が準用されます。それは民法第554条に規定されています。
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する
つまり、遺贈と死因贈与はほぼ同じものであると言えます。
しかし、以下のような点で遺贈と死因贈与は異なります。
・遺言方式
…遺贈は遺言によって行わなければならず、遺言は民法で定められた形式に沿って作成しなければなりません。しかし、死因贈与はあくまで契約ですので、遺言書の形式でなくともかまいません。通常の契約書のような形式で良いということになります。
また、契約という事は、口約束でも成立してしまうということです(ただしその後の証明が困難になるため、やはり書面に残しておく方が良いでしょう)。
・遺言能力
…遺言は、民法により15歳以上の者に認められています。そのため15歳未満の者は遺贈をすることができません。一方、死因贈与は契約ですので、本来は20歳以上の成人でないと行うことができませんが、法定代理人(親権者など)の同意があれば15歳未満の者でも贈与者となることができます。
・受遺者が先に亡くなった場合
…通常贈与契約をした場合は、受贈者が先に亡くなった場合は、受贈者の相続人がその地位を引き継ぎますが、死因贈与の場合は遺言の規定が準用される為、死因贈与の効力は無くなります。
また、先ほどから「契約である」と言っていますが、契約との違いもあります。
・死因贈与契約撤回
…本来契約は、どちらか一方の意思によって契約の解除をすることはできません。しかし、死因贈与については、贈与者が撤回することができます(受贈者はできません)。
ただし、負担付死因贈与の場合に、受贈者が負担を履行していた場合は、撤回できない場合があります。
死因贈与の手続き
死因贈与の手続きはとても簡単です。
①死因贈与契約を作成する
例えば
「平成〇年〇月〇日、贈与者○○は、〇県○○にある自己所有の不動産を受贈者○○に対し無償で贈与することを約し、受贈者○○はこれを受託した」
「本贈与は贈与者の死亡により効力を生じ、かつ、贈与不動産の所有権は当然に受贈者に移転する」
などといった内容の文章を載せ、その後
・不動産の表示(該当不動産の地番や家屋番号、地目、地積など)
・贈与者、受遺者の住所氏名と捺印
・(死因贈与契約執行者がいる場合)執行者の住所氏名、生年月日
・契約日時
などを記載します。
②始期付所有権移転仮登記
死因贈与は、①の死因贈与契約書のみで十分ですが、特に負担付死因贈与を契約している受遺者は不安定な立場となっていますので、死因贈与の場合は始期付所有権移転仮登記という登記をすることができるようになってます。
この仮登記をすることにより、該当不動産はいずれ死因贈与により受け取るものが決定しているということが対外的にわかりますので、受贈者が安心できますし、該当不動産が勝手に処分されるのを防いだりすることが期待できます。
ちなみに始期付所有権移転仮登記をする場合は、死因贈与契約書を公正証書で作成しなければなりません。公正証書は公証役場にて作成することができます。
手数料は『贈与する金額』や『贈与する目的物の価額』に応じて算定されます。算定できない場合は11,000円となります。
そしてこの仮登記は、受贈者が単独ですることも可能です。ですので、死因贈与の受贈者はあらかじめ公正証書で死因贈与契約書を作成しておくと安心でしょう。
また、始期付所有権移転仮登記をする場合は、その旨を死因贈与契約書に記載しておく必要があります。文面としては「贈与者○○および受贈者○○は、本件不動産について、受贈者○○のために始期付所有権移転仮登記をするものとする。贈与者○○は、受贈者○○が上記仮登記申請手続をすることを承諾した。」といった内容となります。
「死因贈与」のメリット・デメリット
●死因贈与のメリット
・遺言を書かなくて良い
・特定の人物に財産を必ず受け取ってもらえる
(遺贈と違い、お互いの合意の上での契約の為、放棄されることが無い)
・口約束でも成立する(ただしトラブル回避のためには書面に残しておく方が良い)
●死因贈与のデメリット
・契約内容を撤回できない場合がある(既に一部の負担付死因贈与の負担を履行されている場合や、始期付所有権移転仮登記をしている場合など)
・不動産が死因贈与の対象物である場合、税金が高くなる
【登録免許税】
遺贈の場合…相続人は0.4%、相続人以外は2%
死因贈与の場合…すべての人が2%(始期付所有権移転仮登記をした場合は、仮登記の際に1%、本登記の際に1%)
【不動産所得税】
遺贈の場合…不動産所得税はかからない
死因贈与の場合…すべての人が4%
まとめ
“私が死んだら財産をあげる”といった契約は成立する事、また、確実に自分の財産を誰かにあげられることなどがわかりましたね。
ただし相続ですので、他の相続人とトラブルにならないように、弁護士や司法書士など、死因贈与のプロに相談してから契約を結ぶことをおすすめいたします。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
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