1. 親の家の価値はいくらぐらい?

悲しいけれどいつかは直面する、親の世代の病気や逝去。そんな時、実家をどうしますか?「思い出の詰まった実家を手放すなんて」「古い家に買い手なんてつくのか」など心配ごとがたくさんあることでしょう。
 手始めに親の家の価値を調べましょう。土地の場合は、相続税の評価額が「路線価方式」と「倍率方式」の2つのどちらかで計算されます。実家がどちらの方式になるかは、最後に参考としてあげている国税庁のホームページの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」を調べればわかります。ただしこの評価額は「1月1日から12月31日までの間に相続、遺贈又は贈与により取得した財産に係る相続税及び贈与税の財産を評価する場合に適用します」(国税庁)ので、年度ではなく年によって変更される点に注意しましょう。
「財産評価基準書」は下に記載したアドレスからページを開き、該当する都道府県→「路線価」→市区町村→地名(町または大字)の順に選びます。地名の右にある図面番号のうち、とりあえず一つを開くと周囲の地域地図番号が書かれていますので、簡単に実家の土地がある地図を探し出すことができます。
●路線価方式の場合
 実家の地域地図で、土地が面している道路に沿って矢印があり、そこに小さな数字が書かれている場合は、実家の土地は路線価が定められている=相続税評価額が路線価方式になる、ということです。肝心の路線価は、矢印の上に書かれた小さな数字です。1平方メートルあたりの価格を、千円単位の数字で表しています。
相続税評価額の計算式と例は下の通りです。

路線価方式の場合の相続税評価額
計算式路線価の数字(千円単位)×土地の面積(平方メートル)=相続税評価額
 路線価の数字(千円単位)実際の路線価土地の面積(平方メートル)計算式相続税評価額
200200,000円
=20万円
10020万円×1002千万円

これで親の家の価値がわかりました。
ただし路線価方式の土地の場合でも、形状によっては評価額が多少増減されます。もし親の家の土地が長方形以外の場合や角地の場合には、このことを頭の片隅で覚えておいてくださいね。
●倍率方式の場合
 実家の土地が面する道路に数字が書いていない時は、実家は路線価が定められていない地域にあり、倍率方式になるということです。倍率方式は固定資産税評価額を使います。これは各市区町村役場にある固定資産税課税台帳で調べるか、実家に届いているはずの固定資産税納税通知書にも固定資産税評価額が書いてあります。倍率は、さきほどの国税庁の「財産評価基準書」で都道府県→「路線価」の下にある「評価倍率表」のうち「一般の土地等用」→市町村名→倍率表、と探すことができます。

 倍率方式の場合の相続税評価額の計算式と例は下の通りです。
 

倍率方式の場合の相続税評価額
計算式倍率×固定資産税評価額=相続税評価額
 倍率固定資産税評価額計算式相続税評価額
1.11,000万円1.1×1,000万円1,100万円

参考:国税庁 財産評価基準書 http://www.rosenka.nta.go.jp
財産評価基準書の見かた http://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_prcf.htm

2. 実家を売却処分する際に必要な手続きにはどんなものがある?

あなたが実家の売却処分を検討されている理由は何ですか?その理由によって手続きが異なります。ただ、実家を売却処分する理由は、大きくとらえると以下の3つに分類されるでしょう。
1. 親の代理人となって実家を売却処分する
2. 認知症の親が所有する実家を売却処分する
3. 相続で実家を売却処分する
それでは順番に何をどうするか、を見ていきましょう。最後に大切な節税ポイントもまとめましたので、そこも必ず目をとおしてください。

2-1. 親の代理人となって実家を売却処分する場合 【point:代理人による契約】
親が「自宅を売る」という意思・判断能力がはっきりしていれば、親は子供や親族、または第三者宛に委任状を作製し、代理人を選んで不動産売却を進めることができます。そこで必要なステップと手続きは以下の通りです。
1. 売却前に親や親族と話し合う。
  2. 親が子どもあてに不動産売却に関する委任状を作成し、子供が代理人となる。     
3. 代理人が不動産会社を選定して、不動産売却の媒介契約を締結する。    
4. 買主が見つかったら、代理人が売買契約を締結する。←【代理人による売買契約】
5. 司法書士に親の意志確認と本人確認をしてもらい、登記書類を作成してもらう。
6. 代理人が残代金を受領し、所有権が親から買主へ移転する。その際、贈与と疑われないように、残代金は速やかに親の口座に移すこと。
 
2.-2認知症の親が所有する実家を売却処分する場合【point:成年後見制度】
 親が認知症を発症していて、不動産売却に関する意思判断が出来ない場合には、子供や親族といえども親の代理人として不動産を売却することはできません。「成年後見制度」を利用して売却を進めます。そこで必要なステップと手続きは以下の通りです。
1. 成年後見制度のうち、今回は「法定成年後見人制度」を利用することを確認する。↑【成年後見制度】
2. 家庭裁判所から後見人の選任を受ける。(3-4か月必要)
3. 後見人が不動産を売却する不動産会社を選定し、媒介契約を締結する。
4. 買主が見つかったら、後見人が売買契約を締結する。
5. 被成年後見人である親の自宅を売却するので、家庭裁判所から許可を得る。
6. 後見人が残代金を受領し、親から買主に所有権が移転する。

2.-3 相続で実家を売却処分する
 相続した不動産は、所有権が相続人の為、一般的な不動産売却手順と変わりません。ただし、不動産の名義変更登記が済んでいない場合は、先に相続人の名前に名義変更登記を行う必要があります。
1. 相続人名義に相続登記を行う。
2. 相続人が不動産を売却する不動産会社を選定し、媒介契約を締結する。
3. 買主が見つかったら、売買契約を締結する。
4. 残代金を受領し、相続人から買主に所有権が移転する。

2.-4 それぞれの【節税】ポイント
 2.-1と2の場合、親が居住している実家であれば、売却処分時に譲渡益が出た場合でも3,000万円の特別控除が受けられます。これには確定申告が必要ですが、特例が利用できるかできないかで後の相続税が大きく変わります。国税庁のホームページ等で、適用要件を確認しましょう。高齢者ホームへの入所などで、既に親が実家に居住していなかった場合は、居住しなくなった日から3年目の年末までこの制度の利用が可能です。
 2.-3の場合は、相続の直前まで親が居住していた実家の売却であれば「相続空き家」の3,000万円控除が利用できます。相続空き家の3,000万円控除は、適用要件が多くて複雑な税制ですが、賢く節税するために、この仕組みをよく理解してから相続登記→不動産売却を進めましょう。特に複数人の相続人がいる場合、控除額は合計で1,000万円を超えることもあるため、利用できる場合は確実に利用するようにしましょう。
参考:国税庁
・3,000万円の特例控除 
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
・相続空き家の3,000万円控除の適用要件 
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

3. 空き家になった実家の処分方法

 空き家になってしまった実家。そのままにしておくと、固定資産税を支払い続け、維持管理をするだけの「お荷物」のような存在です。大切な実家がお荷物になるのは悲しいですね。そこで、空き家の処分方法を4つご紹介します。
 4つの方法を見る前に、費用・税金といったお金に関わる大切なポイントを抑えておきましょう。それは建物の解体をせずに、まずは現況のままの処分を検討すること、です。処分方法が異なっても、これは共通のポイントです。
 理由は建物を解体するには百万円単位の費用がかかること、そして住宅用地だから受けていた固定資産税の住宅用地特例という優遇措置がなくなり、最大6倍にまで増税してしまう恐れがあることです。実際には更地にする必要性が出てくる可能性もありますが、その場合でも独断せず不動産業者に相談をして、処分が難しい場合の最終手段として考えましょう。

3.-1 売却する
 空き家になった実家を手放す場合、まず考えられる手段は「売却」です。空き家の地域にある不動産業者に売却依頼をしましょう。売れない限り成功報酬である仲介手数料を支払う必要はありませんから、まずは声をかけましょう。仲介手数料は宅地建物取引業法第46条および国土交通省告示1155号により、以下のように決まっています。

依頼者の一方から受領できる報酬額
取引額報酬額(税抜き)
取引額400万円を超える金額売買金額×3%+6万円
取引額200万円を超え400万円までの金額売買金額×4%+2万円
取引額200万円までの金額‘売買金額×5%

*全て実際の取引時には消費税がかかる。

 実家が地方で都市部以外にある場合には、土地はあまり高く売れず、仲介手数料も低くなります。不動産業者からすると、あまり魅力的な案件とは言えないでしょう。また空き家が遠方にある場合には、相続した所有者が遠方の不動産業者を探すのも大変です。
 そこでおすすめは、一括査定サイトを活用して不動産業者を探すことです。一括査定サイトを利用すれば、自宅で業者探しから査定依頼までを行えます。現地に赴くことが難しい空き家売却にはうってつけの方法ですね。査定をしてもらい、売却をお願いする業者を決めて媒介契約を締結します。
 不動産業者が決まり媒介契約を締結しても、売れる保証はありません。空き家の売却にあたっては「金額を優先しない」「長期戦になることも覚悟する」がポイントです。けれども1-2年待っても売れない、必要以上に値引きしても売れない、などの場合は別の選択肢を検討しなければなりませんから、売却には、あらかじめ売却活動をおこなう期間のリミットや、売却金額の下限額を決めておきましょう。

3. -2一般の人に売れなかったら業者に買い取ってもらう
こちらは「売却」の中では主流である一般の人に売るのではなく、「不動産業者」に売るという方法です。メリットは一般の方には売れない不動産でも、基本的には現状のまま買い受けてもらえて、仲介手数料も不要なことです。一方デメリットは価格面です。買い取り金額は相場から大幅に下がり、場合によっては価格が付かないこともあり得ます。一見、デメリットが大きい業者買い取りですが、たとえ金額が付かなかったとしても、通常の方法で売却できなかった空き家の処分方法としては「解体の費用が不要」「修繕・整理の手間がいらない」などの利点もあります。
 けれども不動産業者もボランティアではありませんから、空き家を安く買い取り、その後再販や賃貸物件化して「収益」を見込める地域でしか買い取りをしてくれません。いくら「無償でもいいから買い取ってほしい」と依頼しても、「買い取り不可」といわれる可能性も十分に考えられます。

3.-3.それでも売れない場合に考える「寄付」という方法
一般の人にも売れず、業者も買い取ってくれない場合には、「寄付」という方法があります。空き家を寄付する先として考えられるのは、以下の3つです。
①自治体や町内会
まずは実家を所管する自治体に相談してみましょう。
②個人
この場合は「寄付」というより「贈与」扱いになります。個人間で110万円以上の価値がある資産を売買ではなく無償で受け渡す場合には、受け入れた側に「贈与税」が発生します。税金はかかりますが、この寄付を受け入れてくれる可能性が最も高いのが隣地の住人です。隣の土地をもらえば自分の家の敷地が広くなるので、多少税金を払っても寄付であれば、と受け付けてくれる可能性があります。
③法人
法人に不動産を寄付することはあまり一般的ではありませんが、一つの選択肢になります。寄付する方法としては、直接法人に打診してみる、あるいは空き家の管理や処分の相談窓口を開いているNPO法人などに相談してみましょう。

3. -4相続前に相続放棄という選択肢も
相続人にとって不要な空き家は、残念ながら「マイナスの遺産」。そこで借金を相続する場合などに使われる「相続放棄」を選択する方法もあります。ただし相続放棄を選択するにあたり、注意点が3つあります。
注意点1. 特定のものだけを放棄することはできない
プラスの遺産である預貯金類は受け取り、マイナスの遺産である空き家だけは相続しない、という選択はできません。相続するものが空き家だけなら問題ありませんが、その他の資産がある程度ある場合には、相続放棄は現実的ではありません。
注意点2. 自分が相続放棄したとしても、次の順位の相続人に相続権は移行する
自分が相続放棄したとしても、空き家は次の順位の相続人に相続権が移行します。不要な空き家を相続しないようにするには、相続権を持つ人全員が相続放棄する必要があります。
注意点3. 相続放棄をしても「管理者」としての責任は続く
最大の注意点は、相続放棄をすれば「所有者」ではなくなり、固定資産税の納税義務等はなくなりますが「管理者」としての責任は続きます。
相続放棄は1度すると撤回ができません。後々膨大なプラスの遺産が存在していることが判明しても取り返しがつきませんので、相続放棄をする場合には慎重に行いましょう。

4. 実家を処分するメリット

 空き家になってしまった実家は、処分せずに放置しておくと「お荷物」です。空き家とはいえ固定資産税はかかります。また家屋や土地を適切に管理しなければなりません。空き家問題がクローズアップされるようになった結果、空き家でも管理不行き届きの場合には地元の行政から指導が入り、固定資産税も宅地用地としての優遇が受けられなくなる可能性も出てきました。
 このように空き家となった実家を維持するには、手間と時間、そして経済的な負担がのしかかってきます。賃貸にしたら、と思われるかもしれませんが、そのためにはリノベーション等の莫大な初期費用が必要なうえ、必ず賃借人が現れるという保証はありません。処分をする方がメリットは大きいのです。
 もし売却できたら一時的にまとまった収入を得られます。不動産を売却した際に発生する利益は「譲渡所得」と言われ、通常は譲渡所得に対しても税金はかかります。しかし平成28年度(2016年度)の税制改正により、平成28年4月1日から平成31年(2019年)12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができるようになりました。これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。適用要件については、国税庁のホームページでご確認ください。

参考:国税庁ホームページ 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

5. まとめ

 思い出のたくさん詰まった実家。空き家とはいえ、処分に踏み切るのは勇気が必要でしょう。けれども空き家のまま実家を維持するのは「負の遺産」を相続したのと同じこと。無駄な経費がかかるだけではなく、もしあなたに何かあったら、その「負の遺産」をそのまま子供さんに残すことになります。そんなことをあなたは、また実家を残した親御さんは望まれるでしょうか?ややこしく、勇気が必要な手続きだからこそ、あなたの代できっちりと始末をつけましょう。それが実家を残してくれた親御さんや、未来を背負う子供さんに対してあなたができる最善のことなのですから。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。