■相続税を払うために相続財産を売却した場合
相続税を支払うためであっても、相続財産を売却した場合は、土地の譲渡にかかる所得税の支払いが発生します。
まず、相続税とは、相続や遺贈によって取得した財産及び相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産の価額の合計額(債務などの金額を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を加算します)が基礎控除額を超える場合に、その超える部分(課税遺産総額)に対して、課税されます。
次に、相続した不動産を売却するとなると、被相続人がその不動産を購入したときの購入金額から、相続人が売却したときの売却金額などを差し引いた差額に利益(譲渡所得)が生じた場合、その利益分に対して所得税が課税されてしまいます。
相続税を支払うために、相続財産を売却しても、譲渡所得が発生すれば譲渡所得税も支払わなければならなくなるのです。
■譲渡所得とは?
譲渡所得とは、一般的に、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得をいいます。なお、譲渡とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので、通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます。
譲渡所得は、次のように計算します。
収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額
ここでいう収入金額とは、通常土地や建物を売ったことによって、売主が買主から受け取る金銭の額です。
■相続財産の売却する場合、被相続人が不動産を購入した時の領収書の有無により、譲渡所得に課税される税額が大きく変わることがあります。
不動産登記が電子化されつつある今、以前のように「権利証」を大切に保管する必要性が薄れてきました。
それよりも、相続によって取得した不動産を売却するに際して、課税譲渡所得金額を確定させるのに大切なのは、その不動産を被相続人が購入した際の「領収書」です。
まず、譲渡所得の計算は不動産の所有期間によって異なります。所有期間が5年超(長期)の場合と5年以下(短期)の場合では税率が異なり、短期譲渡にかかる所得税は、長期譲渡にかかる所得税の約2倍になるのです。
なお、不動産の譲渡に伴う所得税、住民税の計算の仕方
長期譲渡の場合 {譲渡金額-(取得費+譲渡費用)}×20.315%
短期譲渡の場合 {譲渡金額-(取得費+譲渡費用)}×39.63%
ここでいう「取得費」とは、被相続人が実際にいくらで買ったか(取得価格)とは異なり、減価償却費を加味して計算した金額なので取得価額よりも低い金額となり、利益が出やすい計算になります。
それでは、なぜ「領収書」が重要かと言うと、相続で取得した不動産の場合は長い年月が経過しているために、「購入当時の契約書や領収書など、取得価格を示す資料が見当たらない」というケースが多々あります。そのような場合だと、税務署は譲渡価額の5%しか必要経費(上記の式で言うところの「取得費」)としか認めてくれません。つまり「領収書」が無いと税金の計算上、極めて不利になるのです。
■領収書の有無による計算方法
ここで具体的な例を挙げてみましょう。
会社員の甲さん(48)の父は78歳で亡くなりました。被相続人は、相続開始の10年前に7000万円で土地建物を購入していました。
そこで、減価償却を加味した後の取得費は6000万円で、この土地と建物を息子の甲さんが相続した後、4年目に1億円で売却したとします。
その際の譲渡所得税とは
{領収書がある場合} (1億円-6000万円)×20.315%=約812万円
{領収書がない場合} 1億円×(100%-5%)×20.315%=約1929万円
領収書がないと5%しか必要経費が認められないため、領収書がある場合に比べ約1117万円も多く税金を支払うことになってしまうのです。
甲さんのケースでは、生前に父親に確認して取得時の資料を揃えておけば、領収書の紙1枚で約1100万円もの所得税の節税ができたということです。
■まとめ
将来を考えて「過去の資料を整理しておく」ことも広い意味での相続対策になります。機会があれば「お父さん、この家を買った時の書類ある?」と聞いてみるのもいいかもしれませんね。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。