そろそろ家をリフォームしたいな・・・・・・

私の父は7年前、母は4年前に他界しています。両親は、共に離婚や再婚を何度か繰り返していました。
ですから、父も母もそれぞれ違う方との結婚歴があり、その方との間に子供がいたりするようです。
私は、両親と一緒に生活していた家に母と暮らしていました。
母も他界し、今はそのまま私が住み続けており、現在は私と妻、息子夫婦と一緒に住んでいます。この度孫が産まれたので、この家をリフォームしようと考えました。

そこで不動産屋さんに相談をしたところ、この家の土地と建物は亡父方の祖父名義であることが分かりました。祖父もとうの昔に死亡しています。また紹介された司法書士の先生から、父が離婚・再婚を繰り返すなかで、養子縁組をしたり、解消したりをしていることも分かりました。

その後、名義変更をしなければリフォーム代金の融資も出来ないと銀行から説明がありました。
そのためには、共同相続人間で話し合いをして、他の相続人からの協力を得なければならず、話し合いが上手くいかなかった場合は、費用や時間もかかるうえに、最悪、私達はこの家から出ていかなければならず、売らなければならない可能性があるとも言われてしまいました。
そもそも、リフォームするお金もないから借りる予定だったので困ってしまいました。そんな大変なことになるなら、今はそのままにして住んでいようかと思いますが問題はありますか。

<相談者の希望と状況>

資金がないため不動産を担保に銀行から融資を受けてリフォームを行いたい。
そのためには、不動産の名義を亡祖父から相談者にする必要があるが、そのために多くの費用や労力はかけることが出来ない。
それしかないのであれば、この現状のまま住み続けたい。

■相続人の確定

まず、相続手続きを行うためには相続人を確定する必要があります。
本件では、亡祖父の相続から亡両親の相続人まで全て調べる必要があります。具体的には、亡くなった方が出生した時から死亡時までの一連の戸籍・除籍証明等を取得して、亡くなった方の相続関係を明らかにしていかなければなりません。一連の証明書を収集するには、先ずは被相続人が死亡したことが記載されている除籍証明か戸籍証明を取得することから始めます。
そして、その戸籍が何時、何が理由で作成され、その戸籍(場合によっては除籍)の前の除籍(戸籍の場合もあります)を取寄せ、更にその前と、一つずつ遡っていかなければなりません。

➀代襲相続

代襲相続とは、「被相続人の子が、相続開始以前に死亡したとき、又は891条の規定(相続人の欠格事由)に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる(民法第887条2項前文)」。つまり、子どもが被相続人である親より先に死亡している場合に、孫が本来の相続人である子の代わりとなって、親の相続をする、という制度です。

➁数次相続

数次相続とは、被相続人の遺産分割が終了する前に相続人が死亡してしまい、その地位を相続人の法定相続人が引き継いでいる状態のことをいいます。
たとえば、父が死亡し、母と兄弟2人の3人が法定相続人であったとします。父の相続について、まだ何も話し合いや手続きをしていない状況で、相続人の1人である母が死亡してしまうような場合が「数次相続」の状態です。
このように、相続手続きが終わらない状況で、その相続人間で新たな相続が発生し、相続が重なってしまう状況のことを「数次相続」というのです。

➂連れ子

再婚の場合、再婚をする相手に子供がいる場合があります。いわゆる連れ子です。ただし連れ子は、法律上の親子ではありませんから相続人になることはありません。しかし、養子縁組をすれば血族と同視される者として、法律上の子供にあたることとなり相続人となります。
本件では、亡父には腹違いの子供や養子がおり、相談者の知らない兄弟が相続人であることが分かりました。亡母も連れ子のいる男性と再婚をした際に養子縁組をしていましたが、その後離婚する際に養子と離縁をしていたため、その連れ子は亡母の相続人ではありませんでした。

この様に、離婚や再婚が複数ある場合は、相続人が誰なのか戸籍謄本を特に注意して見る必要があります。

■住み続けることは可能か?

本件は、他の相続人らから何も連絡のない状況でしたので、「とりあえず」住むだけであれば現状可能でした。
しかし、本来であれば他の相続人にも権利がある訳ですから、何時その権利について主張されてもおかしくない不安定な状態であると考えます。
相続手続きを完了させなければリフォームはおろか、この先この不動産を勝手に売却することも出来ません。

■後日談

ご相談者は、はじめ当センターを含め複数の法律相談をした結果、現状を維持されることを希望されることとなりました。
しかし、孫も成長し、新たな家族が増えたりしたことで手狭になったうえに建物も老朽化してきたとのことで、この家を出ることも検討しているので、この際相続手続きを行いたいと後日連絡がありました。

幸いにも当センターの懇意にしている不動産会社が買取り可能な物件だったこともあり、ご依頼を受ける運びとなりました。
名義人である祖父が亡くなってからかなりの歳月が経っていたこともあり、相続人は上記で説明した代襲相続や数次相続、またご両親が再婚を繰り返されたこともあり、最終的に相続人は20人以上となり名前も知らない方も複数いらっしゃいました。

その全てに連絡をとり、協議を行った結果、相続権を放棄ないし相談者に譲渡して下さった方もいれば、権利を主張される方もいらっしゃいましたが裁判所の力を借りることなく、任意の話し合いで協議がまとまることが出来ました。
結果としては、相談者が不動産を取得するのではなく、不動産会社に買い取ってもらい、その売却金を協議の内容通りに分配することとなりました。

■最後に

実は本件の様に、当然住んでいる自分の権利になっていると思い込んでいたと言う事は珍しくありません。
この相談事例は、亡祖父をはじめ、ご両親も「遺言書」を遺されていませんでした。名義人であった亡祖父が相談者の父に相続させたかったのであれば、そして亡父も相談者に住み続けて欲しいと思っていたのであれば、それを言葉でもなく、公正証書にせよ自筆にせよ、きちんと法的に有効な「遺言書」をのこしてさえいてくだされば相談者もここまで苦労されることはなかったことでしょう。
他のコラムでも「遺言」について触れることが多いですが、こうして自分の子供や孫たちが苦労しないように遺言書を作ってあげることも大切です。

昨今は子供のいない夫婦も大変増えてきました。詳しいお話はここでは割愛しますが、この様な家族構成の場合も、配偶者が死亡した際に遺言などの対策をしておかなければ、本件の様に家を売却等せざるを得ない状況になるかもしれません。

また、本件の様に相続手続きをしないまま放っておけば、相続人が多岐に別れ複雑になってしまうばかりか、相続人が増えれば増える程、それぞれの主張が出てきますので話し合いで解決することも難しくなってしまいますので、なるべく早く解決することをお勧め致します。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
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