先月父が亡くなりました。相続人は母と長男である私の2人だけです。
父は真面目な性格で、コツコツと貯めたお金や不動産が遺産として残りました。勿論借金などありません。

しかし、父は数年前に親友が起業する際、銀行からの融資の連帯保証人となりました。
保証した債務の金額は3000万円ですが、会社の経営は順調で、残債は1000万円程度まで減っているそうです。

私も母も細かい事は分かりませんが、よくよく契約書を見てみると「根保証」となっている事が分かりました。「根保証」であれば、今は1000万円でも極度額の3000万円までは、新たな契約をしなくても借入が出来るという事を知り大変驚いています。父の遺産は、金額にすると全部で3000万円強ありますが、その殆どが不動産です。

連帯保証人としての立場も相続されるということを考えれば、私と母は相続放棄をしたほうが良いのか、父の親友の事を信じてこのまま相続をしていいのか悩んでいます。何か良い方法はありませんか。

■連帯保証人とは

まず、保証人には通常の保証人と連帯保証人があります。
主債務者が返済できなくなった場合に支払をしなければいけない義務を負うのは両者とも変わりはありませんが、その役割には幾つかの違いがあります。

主債務者が返済出来なくなって請求された場合、保証人であれば債権者に対し「まずは主債務者に請求して下さい」と主張することが出来ます。これを「催告の抗弁」といいますが、連体保証人には「催告の抗弁」が認められてはいません。

また、主債務者に何かしらの資力がある場合、保証人はそれを理由に、債権者に対し主債務者の財産に執行を為すまでは自身の保証債務の履行を拒む事が出来ます。これを「検索の抗弁」といいますが、これも連帯保証人には認められていません。
加えて、保証人が複数いる場合、各保証人はその人数で割った金額分のみを返済をすればいいのですが、連帯保証人はその債務の全額を各自が保証しなければなりません。
それほど、保証人と連帯保証人には、責任に対して大きな違いがありますので、債権者にとって有利な連帯保証を求められることが多いのが実情です。

■根保証とは

保証には「付従性」といって、主債務が消滅すると同時に、保証債務も消滅するという性質があります。そのため、同じような契約をする際には、その都度契約を取り交わさなければならず、その手間は非常に煩雑で、継続する取引などでは毎回連体保証人を頼まなければならないなどの不便を生じます。

しかし根保証には「付従性」がなく、債務者は債権者に対し、契約時から将来有する一切の債務を(債務者と連帯して)保証する約束をすることから、継続的な取引を必要とする場合などにおいて、定められた取引が終了するまでは何度でも利用できることから非常に便利な保証といえます。

また根保証には、極度額や期限を定めず、一切の債務を保証する「包括根保証」と、極度額や期限を定めた「限定根保証」の2通りがありました。しかし、極度額や期限を定めない「包括根保証」は保証人が過大な責任を負う可能性があること等を理由に平成16年11月に
民法が改正(平成17年4月1日施行)され「包括根保証」は禁止となりました。

改正により、根保証の契約については、必ず書面での契約が必要となったり、必ず保証額には限度を設ける、保証期間は5年以内かつ、定めがなければ3年などとなり、問題の多かった保証制度が見直されました。

ただし、改正前に結ばれた「包括根保証」の契約は無効にはなりません。しかし、経過措置が設けられており、既存の根保証契約の内で、極度額無制限の根保証は平成20年4月1日に、また極度額に制限のあるものは平成22年4月1日に、それぞれ元本が自動的に確定することになっています。

相談者のお父様が為された「根保証契約」がどちらにあたるかは、相談内容からだけでは分かりませんが、いずれにせよ「包括根保証」は禁止されています。先ずは契約内容や契約日と、現在の正確な残金を確認して下さい。

■相続放棄

相続が発生した時(あるいは相続が発生したと知った日から)3ヶ月以内に、被相続人の住所地の管轄にある家庭裁判所で行う手続きです。
相続を放棄するということは、プラス、マイナス双方を放棄することになるので、相談者の場合、お父様の遺産は殆どが現在お住まいの不動産ということから考えれば、その不動産を手放さなければならない可能性が出てきます。

■限定承認

相続を受けた人が、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。明らかに、プラスの財産のほうが多い場合や、負債が残っている可能性がある場合などに有効です。

いざ相続が発生しても、故人の遺産を短期間で把握する事が難しい場合もあることから、限定承認をしていれば、仮にマイナスが多かった場合でも、プラスの範囲で返済すればよいわけです。逆に、プラスの方が多ければ、何の問題もなく遺産を引き継ぐことが出来るのです。

なお、限定承認を選択する場合も、相続放棄と同じように、相続の開始から3ヵ月以内に、被相続人の住所地の管轄する過程裁判所に手続きを行わなければなりません。

ご相談者の場合は、相続人はお母様と2人で、同じ考えのようで心配ないとは思いますが、相続放棄と違って、限定承認は、相続人全員の一致がなければならず、1人でも反対すれば行う事が出来ない手続きですのでご注意下さい。

■相続放棄の期間伸長

相続は死亡と同時に開始されるもので、全ての相続人が問題なく、決められた期間内に相続の手続きが出来るとは限りません。予期せぬ事故から開始される相続も少なくありません。

また、様々な意見や状況を抱える相続人もあり、意見が対立し中々方向が定まらない事も少なくありません。相続放棄の期間は相続の開始もしくは知った時から3ヶ月以内と定められてはいますが、事情によってはその期間を伸長する事が出来ます。これも、先と同じ管轄の家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間伸長」の申立を行い、認められれば最低3ヶ月の伸長か可能です。

また、事情によってはその後も伸長することは可能です。しかし、あくまでも家庭裁判所にその事情が認められた場合に限ります。
相続人は、お母と2人なので、意見の相違はないと思いますが、とても重要なことなので判断を急がず、このような手続きがあることも念頭において手続きを進めて下さい。

■まとめ

先にもお伝えしたように、先ずは、「根保証」の契約内容や残金を確認することから始めて下さい。そして、その内容を熟慮して、今後の手段を検討して下さい。相続放棄をすることは不動産を手放す可能性も生じることから、くれぐれも慎重に対応して下さい。より良い結果となる事を願っております。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。