私は2人兄妹の長女です。父は既に他界しており、母は近所で一人暮らしをしています。しかし、最近母の体調が急激に悪くなり介護が必要となりました。
そこで兄に連絡をし、兄妹で協力し合うことになったのです。兄は自営業で比較的時間の融通が利くのですが、母を邪険に扱い、3日ともたず介護を放棄してしまいました。母も相当頭にきたのか、兄には一切の財産を残したくないと言っています。
遺言書を書いても、遺留分は請求されてしまうことを知りましたが、正直、母も私もそれすら嫌なのです。遺留分を渡さない方法はあるのでしょうか。ちなみに、兄は昔から暴力的で、親にも手を上げるような人でなしです。
遺留分とは
遺留分とはご存知のとおり、法定相続人に認められる最低限の財産で民法によって定められています。その範囲は、配偶者、直系卑属(子や孫、代襲相続人を含みます)、直系尊属に限られ、兄弟姉妹には遺留分はありません。
なお、遺留分は本来の法定相続分の2分の1であり、直径尊属においては3分の1と定められています。
相続開始前の遺留分の放棄
遺留分の放棄は、相続開始の前後によっても異なってきますが、いずれにせよ遺留分とは遺留分権利者となる法定相続人に与えられた権利であることから、被相続人予定者や対抗する利害関係人予定者の意思で放棄させることは認められていません。
では、その権利を有する推定相続人であれば当然自身の権利として遺留分を放棄することは可能なはずですが、遺留分の放棄を無制限に認めてしまうと,財産を有している将来の被相続人の圧力によって,遺留分の放棄を強要するというようなことが起こらないとも限りません。
そこで、民法は相続開始前の遺留分の放棄については、家庭裁判所の許可を得なければ認めることは出来ないことになっています。つまり遺留分権利者であっても相続開始前には自由に遺留分の放棄は行えないのです。
その手続きは、遺留分権利者となるべき人が、被相続人となるべき人の住所地を管轄する家庭裁判所に遺留分放棄許可審判の申立てを行い、家庭裁判所はその遺留分放棄が本当に遺留分権利者となる人の自由な意思に基づくものなのか(強要などを受けていないか)、遺留分放棄をする必要性があるのかなどを審理し、許可・不許可が決定します。
なお,許可後に事情が変動し,遺留分放棄を許可することが相当でないというような状態になった場合には,家庭裁判所は,職権で放棄許可審判を取り消すことができるとされています。
相続開始後の遺留分の放棄
遺留分の放棄が許可されれば、当然相続開始後、遺留分減殺請求をすることは出来ません。
しかし、あくまでも放棄したのは遺留分であり、相続放棄をしたわけではないことから、相続が開始されれば遺留分を放棄していても法定相続人であることには変わりなく、相続を受ける権利を失うことはありません。
少し混乱するようですが、平たく言えば遺言書がなく、全ての法定相続人がその法定相続人としての割合を相続する場合などと考えて下さい。
なお、遺留分放棄者が被代襲者である場合には,その代襲相続人にもその効力が及ぶことから、遺留分減殺請求の権利はありません。
なお、相続開始前の遺留分の放棄については家庭裁判所の許可が必要ですが、相続開始後については被相続人による強要の恐れがない事等から家庭裁判所の許可なく、自由意思に基づいて遺留分を放棄することができます。
推定相続人の廃除
お兄様が以前より暴力的であったとのことですが、お母様に対する虐待や重大な侮辱等の非行が、お兄様にあった場合、お母様は、家庭裁判所に対し、推定相続人の排除(相続資格のはく奪)を請求することができます。
または、遺言で排除の意思を表示すれば、相続開始後、家裁で手続きを取ることになります。その際の遺言書については、公正証書による遺言書を作成することが賢明だと思われます。
また、お母様の介護に尽力した相続人は、寄与分として、相続分が増える場合もあり、その場合、その増えた分、相対的にお兄様の相続分(遺留分)が減ることになります。
相続人の欠格事由
相続廃除とは被相続人の意思により相続人の権利を失わせる手続きですが、もうひとつ、相続人の欠格事由というものが民法で定められています。
これは、相続資格のある者が被相続人や利害関係人となる他の相続人に対し、生命や遺言行為に対して故意に侵害をした場合に相続権を失わせる制度であることから、今回の相談内容からは離れますが、仮にそのようなことがあった場合には、相続人となることが出来なくなり、当然遺留分の権利すら失うことになります。
相続廃除の撤回
相続廃除を撤回する方法は、2種類あり、相続の開始後、遺言執行者が家庭裁判所で行います。
1:家庭裁判所に廃除の取消請求の申立を行う。
これは被相続人が相続人を許し、取消の請求をするわけなので、すべて被相続人の意志に委ねられます。
2:遺言書による相続廃除取消
まとめ
お兄様の対応には非常に苦慮されていると思いますが、これはあくまでお母様の意思となりますので、過剰な干渉は避けられた方が、いずれ発生する相続手続きにおいては賢明であると思料します。
民法では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と示してあり、これは金銭的な部分はもちろんの事、現代社会では介護の部分も含まれていると解釈されている状況にもあるようでが、たとえ親であっても相談者の方の生活が脅かされてしまえば何にもなりません。まずはご自身の出来る範囲でお母様の介護をし、厳しい部分は市町村など公的な支援も検討下さい。
しかし、出来れば今一度お兄様とじっくり話し合いをする時間を設け、よりよい関係でお母様の介護が出来ることを願っています。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。