父が死亡しました。
相続人は、母と私を含めた3人の子供と、甥っ子(既に死亡した次男の子供たち)2人、合計6人です。
父は自筆で遺言書を残していたので、家庭裁判所で検認の手続きは行いました。遺言書の内容は、「甥っ子Aに全てを相続させる」と言うものでした。

実は、この遺言の存在を母は知りませんでしたが、子供たちは父から聞いていたので内容のことも知っていました。
父は、「実家やお墓、母に何かあった時はAに全て頼んだ」と生前良く言っていましたし、そのことは母も聞いていました。

ですから、父としては、母は当然納得してくれると考えていたので、くれぐれも子供たちで揉めることにないようにと、念のため遺言書も書いたからなと子どもたちに話をしたのです。

結果的に、この遺言に対して強い反発をしたのは意外にも母でした。それに呼応するように、もう1人の甥っ子Bが不満を言い出しました。
私を含めて他の相続人は、この遺言に異議がないため、検認もきちんと終わりましたし、Aには早く手続きを進めてもらって父の相続のいざこざを終わりにしてほしいと思っていますが何か問題はありますか?

また、母とBがしつこくAに対してもグダグダ文句を言っているので、止めさせたいのですが、調べてみると母とBには遺留分という権利があるようです。私たちの場合はどうなるのでしょうか?

■遺言の内容を実現する

本件は、相続人のうち母とBが遺言に対して不満を主張していますが、検認された遺言自体は法的に有効なものでした。ですから、遺言の内容どおりに手続きを行うこと自体に問題はないのですが、「遺言執行人」は指定されていませんでした。

そこで、円滑に手続きを進めるために、遺言執行者選任の手続きを行い、遺言執行者にAが選任されました。

<遺言書の検認>

遺言書の「検認」とは、相続人に対して遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するためです。検認手続では、あくまで遺言の内容についての有効・無効を判断する手続ではありません。

遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています(民法1004条)。

<遺言執行者>

遺言を執行する権限を持っている人のことです。なお、遺言執行者は相続人の代理人とみなされ(民法1015条)、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができません(民法1016条)。

<遺言執行者選任の申立>

遺言書の中で遺言執行者が指定されていない場合、または指定されている人が亡くなった場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任申し立てをします。

家庭裁判所から書面にて照会や直接事情を尋ねられる場合がありますが、その場合には必ず応じるようにしましょう。問題がなければ、家庭裁判所より遺言執行者に選任する旨の通知があり、ようやく遺言書に基づいた手続きが始められることになります。

 

■母とBの権利

文句を言っているとありますが、母とBも全くの他人や部外者ではなく相続人です。(Bは、亡次男の代襲相続人)
法定相続の割合は、母が2分の1、Bは16分の1となりますが、Aに全てを相続させる遺言書がありますので、法定相続分を主張することはできませんが、母とBは遺留分減殺請求権に基づいて遺留分を請求できます。法定相続分と遺留分の割合については、下記に記載します。

<法定相続分>(民法900条)

相続人が配偶者のみの場合、配偶者が100%。
相続人が配偶者と子供の場合、配偶者が2分の1、子供が2分の1(子が複数いる場合は、均等に分割)
相続人が配偶者と父母の場合、配偶者が3分の2、父母が3分の1(両親とも健在の場合は、均等に分割)
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1(複数の場合は、均等に分割)

<遺留分>(民法1028条)

配偶者のみ   配偶者が2分の1
子供のみ    子供が2分1
配偶者と子供    配偶者が4分の1 子が4分の1
配偶者と父母    配偶者が3分の1 父母が6分の1
配偶者と兄弟姉妹  配偶者が2分の1 兄弟姉妹は遺留分なし
父母のみ      父母が3分の1
兄弟姉妹のみ    兄弟姉妹には遺留分なし
※代襲相続による相続人にも遺留分の権利があります。
※遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続開始及び減殺すべき贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始時から10年を経過したときも、同様とする。(民法1042条)。

本件の遺言書の様に、法定相続の割合ではなく、分配の割合に偏りがある場合があります。
法律では、法定相続人は配偶者、子ども(またはその代襲相続人)、直系尊属には『遺留分』という、遺族の生活を保証するために、最低限の財産を相続することができる権利があります(民法1028条)。

 

■まとめ

本件の相談者は、母とBが納得出来ないと言い続けていることを止めさせたいと相談に来られました。
遺留分については、遺留分の侵害を知った遺留分権利者から主張するもので、相続を受けたAから進んで遺留分を渡す必要はありません。
ですが、これ以上言い争いを長く続けたくないとAも希望していましたので、弁護士がAの代理人となり、母とBに上記の遺留分について説明し、遺留分相当の現金を支払うということで納得してもらい合意することが出来ました。

 

■最後に

本件の様に、相続人間での協議は、感情的な問題も発生し、何時までも決着が着かないケースは珍しくありません。そういった場合は、第三者である弁護士が代理人として介入することにより、スムーズに解決に至ることがあります。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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