受け取れるはずの遺産が支払われないときは?

遺産を受け取ることになっていて、あとは口座に振り込まれるのを待つだけなのに、いつまでたっても振り込まれない。そんなときは、時間の経過とともに不安や焦りが膨らむものですよね。ただ、遺産の分割が決まってから、実際に現金が振り込まれるまでにはある程度の時間がかかります。必要書類が集まるまでに要する時間によって違いがありますが、一般的には数週間から数ヶ月かかるものです。

万が一、それをすぎても一向に振り込まれる気配がなく、遅延などの連絡も貰えないときは、このまま放置されるのではないかという懸念や、もしや自分が何らかの必要な手続きを怠っているのではないかなど、心配が募るでしょう。
しかし、遺産を受け取ることがはっきりしている以上、必ず、対処方法があります。遺産を受け取る話がどういったかたちで決定したのかによって、対応方法が異なりますので、それに応じて適切に対処しないといけません。
遺産を受け取る際のポイントとなるのは、次の3つです。

  1. どんな約束だったのか?口約束だけなのか、念書などがあるのかなど
  2. 遺産分割協議で決定した事項だったかどうか
  3. 遺言だったことがはっきりしているのかどうか

ここでは、遺産が支払われないという具体的なケースを取り上げて、それぞれどう対処したら良いのか説明していきます。もしも、遺産の振り込みが予定より遅れていて音沙汰がないというときは、放置せずに早めの対策をおすすめします。

パターン1「代表者を立てた場合」

遺産を分割した際に一番多いのが、相続人のうちの誰かが代表者となり手続きを行うというケースです。この場合は、代表者に全員が必要書類を渡すことになります。代表者が集める書類は以下のとおりです。

相続人に対して

  1. 代表者を選定したことを認める相続人全員の実印を押した書類
  2. 印鑑証明書
  3. 戸籍謄本

被相続人関連

  1. 被相続人の除籍謄本
  2. 被相続人の改製原戸籍(改正前の古い戸籍)

被相続人の生まれてから死亡するまでの全ての戸籍を集めることは、それほど容易なことではなく、ここでかなり時間がかかります。被相続人が離婚していたり、養子縁組をしていたりすると、そのぶん時間や手間がかかるということを認識しておきましょう。
こうして、必要な書類が全て集まったら、銀行での払戻し手続きを行います。そこではじめて、銀行が書類をチェックして振り込みへとなります。
相続人が少ない場合はいいですが、多い場合や、遠方に住んでいるなどで連絡が取りづらいとき、連絡がつかない相続人がいるときなどは、さらに時間がかかります。そのような場合には、想像以上に振り込みが遅いということもあり得ますので、ケースバイケースです。

パターン2「遺産分割協議書が作成してある場合」

相続人が一堂に会して、遺産の分割方法を協議の上で決着し、その内容を書面(遺産分割協議書)として残してある場合があります。その場合は、この協議書を持参して銀行に行けば、手続きすることができます。
ただし、このケースでも支払いが遅れる可能性がないわけではありません。例えば、相続人Aが不動産を相続し、この不動産の代償金として相続人Bに現金をいくらか支払うということになった場合を想定してみます。不動産の相続にも各種の手続きが必要になるため、相続人Bは、その手続きが完了するのを待つほかありません。つまり、相続人Bが現金を手にすることができるのは、相続人A次第ということになってしまうわけです。こうなると、振り込みが遅れるというリスクも否めません。これを防止するには、遺産分割協議書を作成する際に、それぞれ支払いの期限を明記しておくことが望ましいでしょう。

パターン3「遺産分割調停や遺産分割審判を経たとき」

遺産を分割するための相談は、しばしば難航することがあります。とくに、長いあいだ音信不通であった親族が相続人に加えられるケースや、隠し子が判明した場合などは、スムーズに話がまとまらないことも多いのです。そのようなときに、極力揉めごとに発展しないために利用されるのが、遺産分割調停や遺産分割審判です。
遺産分割調停は、家庭裁判所での手続きとなります。調停委員会が相続人たちのあいだに入って、中立的な立場から話し合いを進めてくれるものです。客観的な意見が加わることで、冷静に協議を進めることができます。
遺産分割審判とは、家庭裁判所の裁判官によって決定される手続きです。遺産分割方法を、相続人たちの話し合いをすることなく、裁判官のみで決定します。もし、話し合いをしたとしても、決着がつきにくいだろうと推察される場合にこの方法がとられます。ほとんど裁判のようなかたちです。
遺産分割調停の場合は、いつまでにいくら支払うのかということを合意の上で取り決めるかたちとなりますが、遺産分割審判の場合は審判が下されるだけです。そのため、審判の結果が出たら、自分で相手に対して振り込みを請求することになるので注意が必要です。請求しなければ、いつまでたっても支払いがないという状態になる可能性もあります。

パターン4「遺言執行者がいるとスムーズ?」

遺言者である被相続人に代わって、遺言どおりに遺産が配分されるように取り仕切る人のことを遺言執行者と呼んでいます。遺言執行者の仕事は、財産を相続人に配分するための手続きのほか、認知手続きや廃除手続きなどがあります。
遺言執行者を誰が務めるのかということは、遺言書のなかで明記されているケースが多く、弁護士や信託銀行などが指定されているのが一般的です。しかし、場合によっては、家庭裁判所によって選任されることもあります。
遺言執行者に指名された場合、これを拒否することは可能です。承諾した場合は、速やかにその任務を果たさなければなりませんので、結果として相続したものが振り込まれるまでの期間は短くなる傾向があります。遺言執行者は、相続財産のなかから出金する手続きや、相続財産を換価するということが主な仕事です。
遺言執行者が手続きを行う場合、家庭裁判所での検認が必要となります。これが行われるまでには一ヶ月ほど要するので、遺言執行者がすぐに仕事に取り掛かり、熱心に業務を遂行したとしても、一定の期間は要するということを認識しておきましょう。

遺産振込がないときはどうすればいいのか?

それでは、予定していた時期を過ぎても振り込みがないというときは、どのように対処するべきでしょうか。各々のケース別に説明します。

代表者を立てた場合代表者に必要な書類を渡したにもかかわらず遺産の振り込みがないときは、口約束だけではなく公的な書類を用意する必要があります。そのため、家庭裁判所に対して、遺産分割の調停申立を行うことになります。

 

遺産分割協議書を作成してある場合協議書があるにもかかわらず守られない場合は、遺産分割を解除し、債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことになります。

 

遺産分割調停や遺産分割審判を経たとき遺産分割調停で取り決めた場合は、相手に直接お願いするのが妥当なところです。お互いに納得しているはずですのでそれほど大きいな問題にはならないでしょう。もし、約束をしているのに守ってくれない場合は、強制執行の手続きを行うことになります。

 

遺言執行者がいる場合

 

遺言執行者の解任請求を行います。請求先は、家庭裁判所です。

 

まとめ

 決定しているはずの相続分が予定どおりに振り込まれないときは、それぞれのケースに合わせて適切に対応をとることで、解決することができます。しかし、紛争に発展することがないように、請求する際には弁護士などの専門家に力を借りるのがおすすめです。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。