ここでは、相続を前妻の子にしたいという、世の中に実際にはなさそうですが、結構実際にはある話についてご紹介しましょう。

女性は、前妻の子供を連れた男性と再婚しました。
3人が再婚した初めは仲良く暮らしていましたが、そのうちに暴力を夫が振るうようになって、後妻は離婚しました。

しかし、結婚した頃は、前妻の子供はまだ小さかったので愛おしく、後妻は一緒に離婚した後も暮していました。
後妻と前妻の子供は、後妻の名義の住宅と宅地で暮らしていました。
後妻は、この住宅と宅地を自分が亡くなった後に前妻の子供に相続したいと考えています。

では、どうすれば前妻の子供に、後妻の住宅と宅地を相続させることができるのでしょうか?
前妻の子供は、法定相続人とは違っています。
法定相続人がもし他にいると、その人のものに後妻たちが住んでいる住宅と宅地はなるでしょう。
前妻の子供に相続したいと考えれば、住宅と宅地は前妻の子供に全て相続するということを遺言書に書く必要があります。

また、小規模宅地の特例はこの場合に受けられるのでしょうか?
なお、小規模宅地の特例というのは、相続税法の他に設けられた特例で、通常より土地評価を減額することを認めたものです。
この目的は、例えば、相続税を払うために自宅を売ったり、事業場所を売ったりすれば、相続人が相続によって大きな影響があるので、現在の暮らしに配慮するためです。
現在の法のルールでは、居住者の前妻の子供が後妻からみた場合に親族に該当するか、ということが小規模宅地等の特例を受けられるどうかの分かれ道になります。

離婚と死別の違い

居住者の前妻の子供が後妻からみて親族に該当するか、については、離婚によって姻族関係は終わるというはっきりしたルールが民法728条1項にあります。
姻族というのは、血族の配偶者および配偶者の血族のことです。

親族であると民法上認められる姻族は三親等内の姻族、つまり三親等内の自分の血族の配偶者、自分の配偶者の三親等内の血族は親族になります。
この場合は、夫の子供ではなく、離婚によって、全く親族ではなくなったことになります。

つまり、後妻にとって前妻の子供は親族ではありません。
そのため、小規模宅地の特例はこの状態では使えません。

では、前妻の子供に相続することを諦めるしか方法がないのでしょうか?
前妻の子供に相続する方法としては、前妻の子供と養子縁組するものがあります。
養子縁組をすると、実子と同じ扱いに法的にはなります。
なお、養子縁組としては、普通養子縁組と特別養子縁組があります。

離婚したケースでは?

普通養子縁組というのは、親子関係を実親と残したまま、親子関係を養親とも作るものです。
普通養子縁組としてよく分かる例としては、婿養子があります。
家系に娘の配偶者を入れるものです。

結婚などではなくても、例えば、普通養子縁組は家系に自分の跡取りの人を入れる時にも行われます。
普通養子縁組の場合は、養女、養子として戸籍上に書かれて記録されます。
特別養子縁組は、親子関係を実親と戸籍上断ち切って、養子は親子関係を養親だけと作るものです。
特別養子縁組の場合は、実子として養子を養親が扱うようになります。
戸籍上も、実子と記録されます。

実際は、養子にするのは、最も簡単な解決方法で、親族だけでなく、相続人に一気になれます。
相続人がもし別にいなければ、自分の住宅と宅地を遺言書がなくても相続することができます。
ここでは、再婚の夫と離婚したケースについてご紹介しました。

では、離婚したケースではなくて、死別したケースであればどうなるのでしょうか?

死別したケースでは?

先にご紹介した民法728条の2項には、「夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする」 という規定があります。
逆に言うと、「姻族関係を終えるためには、その意志を示すことが必要である」というようになります。
この規定をベースにして、「姻族関係終了届」についての規定が戸籍法96条には設けられています。

つまり、姻族関係は、この姻族関係終了届を出さないと切れません。
小規模宅地の特例も、親族の状態になっているため使うことができます。
離婚は自分たちの考えで選択したものですが、死別は自分たちが希望したものではありません。
離婚と死別によって、元夫の親族との関係まで違ってきて、影響が相続にも出てきます。

死別のリスクが考えられるならこの手続きを

では、死別するリスクが考えられるような場合は、どのような手続きをするといいのでしょうか?
もし、死別するリスクが考えられるような場合には、ここでご紹介したような養子縁組がおすすめです。
死別する前に養子縁組をしておくと、実子と同じ扱いに法的にはなるため、小規模宅地等の特例も受けられるようになります。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。