相談者の実父が昨年10月末日に死去し,その配偶者である母と私を含む5子が相続人です。相談者なりに情報収集し,遺産総額(預貯金・不動産)を仮評価したところ,今回は相続税の納税義務が発生するほどにはなりません。
しかし,将来実母が死去すると, 現法制下では,渋谷区にある実母名義の賃貸マンションを兼ねた母の自宅と土地について,相続税が発生するだろうと考えています。そこで,この不動産について今から相談者を含めた5子の世代に承継しつつ,二次相続の際の課税金額を抑える方法はないでしょうか。
1.一次相続について
まず,お父様がお亡くなりになり,相談者なりに情報収集をした結果,今回(一次相続)の段階では,相続税の納税義務が発生するほどにはなりません,とのことでした。
なるほど,相続税では,妻の座,つまり配偶者にはかなりの優遇措置が講じられています。代表的なものには,故人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が,1億6000万円若しくは配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという「配偶者の税額の軽減」制度があります。
その他に,個人が,相続又は遺贈により取得した財産のうち,その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち,一定の選択をしたもので限度面積までの部分については,相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上,一定の割合を減額するという,小規模宅地等の特例もあります。しかし,こうした方法が有利になるのは,いわゆる一次相続,つまり夫の相続の話です。
というのも,通常の場合,配偶者が一次相続で取得した財産は,そのほとんどが二次相続の課税対象財産として残るからです。そうなると,二次相続で配偶者控除が利用できないため,一次相続での軽減分が取り戻されてしまう可能性が高くなります。
つまり,一次相続で優遇措置をとり相続税が発生しないと安心していると,配偶者自身の相続(二次相続)では必ずしも有利とはいえない場合が多々あるのです。
そこで,一次相続のときの配偶者控除に目を奪われずに,二次相続を念頭に置いた遺産の分割をすることがポイントになり,それが節税にも繋がると考えられます。よって,一次相続で配偶者控除を活用した場合と,しなかった場合の税額の違いを検討したうえで,判断してみてはいかがでしょう。
2,次に,ご質問内容から,既に一次相続が終了していると考えると
現金の贈与は,一般的にも節税対策として多くの方が実行されていることでしょう。現金などの金融資産は額面どおりの時価で評価されます。100万円の現金は,100万円の価値だということです。
しかし,不動産の場合は少し事情が異なります、なぜなら不動産は時価よりも低い路線価や固定資産税評価で評価されますので,より多くの価値分を贈与できるということです。
たとえば,都市部の場合,現在の地価は上昇しており,将来さらに跳ね上がることも考えられます。そうなると,評価の低いときに贈与してもらうと有利ですね。またその不動産が賃貸物件なら,贈与後の家賃収入も受け取ることができ,節税効果と利用価値が得られるのです。
そうなると,住宅資金の贈与よりも住宅をもらったほうが得だということになります。相続税法上の算定基準となる金額については,建物は固定資産税評価額,土地は路線価で決まるので,市場での時価が1億円の都心の土地と建物でも,評価額になると半分以下ということもありえます。そのため,住宅購入資金として現金を生前贈与してもらうより,親が住宅を購入し,それを贈与してもらったほうが節税になるのです。
相続時精算課税制度では,相続財産として合算する贈与財産(相続時精算課税適用財産)の価額は,贈与時の価額で計算されるため,相続時に実際にその財産の価額が上がっていれば結果的に節税となります。
贈与財産が「贈与時の価額」と「相続時の価額」が一緒であるならば,相続税の節税にはなりません。
しかし,贈与財産の「贈与時の価額」と「相続時の価額」が一緒である場合でも,収益物件を贈与するならば,所得税,相続税の節税となります。
たとえば,今回のご相談のように,親が賃貸アパートを所有している場合,家賃収入のうち必要経費や所得税などを差し引いた残りの現金は,毎年,貯まって相続財産となり課税されます。
ところが,賃貸アパートを子供に贈与すれば,その後の家賃収入は子供のものとなり,相続財産の増加を防ぐことになります。また,子どもは相続税納税資金として蓄えることができます。さらに,所得税についても,親だけの賃貸事業にするよりも,子どもも家賃収入を受け取ることで親の家賃収入が減り,所得税の税率が下がります。
相続税の申告は税理士の専門分野ですが,当センターには,懇意にしている税理士もおります。気になる方は,お気軽に当センターまでご相談下さい。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。