母には婚姻関係がない内縁関係の夫がいましたが,その内縁の夫が亡くなっており,相続手続きは終わっているよう。しかしながら,最近になってその相続の手続きの中で不明な点があることが判明しました。
そこで…
(1) 相続が開始してから2年経ってしまっていますが,相続のやり直しは可能でしょうか?
(2) その相続人が,過去のトラウマ(家族による虐待など)により,相続によって取得した財産を,他人に譲り渡してしまっている場合でも,相続のやり直し,そして他人に譲り渡してしまった財産を返却してもらうことは可能でしょうか?
1 相続回復請求権とは?
1のご相談についてですが,相続人には,自己の相続する権利を侵害されたことを知ったときから5年間は,相続回復請求権※(民法第884条)があります。しかしながら,この権利は相続人にのみ認められた権利であり,内縁関係にあった方は,相続人にはならないため認められません。したがって,お母様は,既に完了してしまった内縁の夫の相続については,やり直しを主張することはできないと考えます。
※相続回復請求権
相続権の侵害に対する救済制度。
表見相続人(戸籍上は相続人としての外観が整っている場合でも,相続廃除・相続欠格になどによって相続権を失っている人)や,不真正相続人(法律上相続人としての資格を有していないのも拘らず,真正相続人であるかのように振る舞い,事実上相続財産を保有している人)が相続人であることを僣称して遺産の支配をしている場合に,真正相続人がその人による遺産の占有を廃除し,相続権を回復するための請求をする権利
2 遺産分割協議のやり直しはできるのか?
2のご相談については,相続手続きが完了した後,財産を第三者に譲り渡したという事実は,相続とはまったく別の法律行為なので,譲渡という法律行為の取り消し,若しくはその無効を主張できるのは,行為者本人であるその相続人だけです。したがって,今回のご相談については,お母様から,財産を譲り受けた方へ返還を求めることはできないと考えます。
(但し,特殊な事情があった場合,結果について変わってくる可能性もあります。)
しかしながら,遺産分割が終了したといえども,遺産分割をやり直したいという場合もあるかと思います。
基本的には遺産分割協議は,相続人全員の合意により成立します。成立することによって効力が生じます。原則としてやり直しはできません。やり直しができるのは,あとから遺産分割の無効や取消しの原因があった場合です。
また,次のような場合は,遺産分割協議自体が法律上無効になり成立していませので,遺産分割協議をやり直さなければなりません。
➀ 相続人を1人でも除外して協議した場合,除外された相続人は,遺産分割協議のやり直しを請求することが出来ます。
➁ 他に相続人がいることが判明した場合
➂ 相続人でない人を加えて遺産分割協議が行われた場合
➃ 民法上の法律行為・意思表示の無効・取消し事由がある場合
※上記については,税法上通常の遺産分割とみなされ,相続税申告が済んでいれば,相続税の修正申告や更正の手続きをおこないます。
なお,相続人全員の合意があれば,その合意によって先の遺産分割協議を解除し,新たな遺産分割協議をすることができます。
※但し,遺産分割協議をやり直すこととした場合は,税務上各相続人間における贈与とみなされ「贈与税」が課税される可能性があります。
後日問題が発生しないよう,遺産分割協議については,十分に検討されることをお勧めします。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。