当センターでもよく質問に来られるのが、遺言を使えば、どのように遺産を分けてもかまわないのですか?という質問です。
結論から申しますと問題ありません、ただし、最低限の相続分である「遺留分」を侵害しない内容にしておく方がよいでしょう。

「遺留分」は遺言でも侵害できない

親の遺産分割をめぐって残された子どもが争う、所謂「争族」には2つのパターンがあります。

1つは、親がどの財産を誰に、どれくらいずつ分けるかを記す遺言を残さない場合。子どもは遺産の分け方について協議(遺産分割協議)せざるをえず、この過程でもめ事が起こることが多いようです。

2つ目は、親の遺言が争いのもとになる場合、「遺留分」は直接的にはこうしたケースで問題になり、遺言は最近増えており、公証人が作成する「公正証書遺言」の作成依頼は、2014年には10万件台に乗りました。
それに伴い遺留分をめぐる争いも目立ってきました。争いを避けるためにはどうすればいいでしょうか。

Aさんは最近、妹から「遺留分を請求する」と書かれた内容証明郵便を受け取り愕然としています。
Aさんと同居していた母親が今年の初めに死亡しましたが、母親は自分が死亡した場合はAさんに「遺産のすべてを相続させる」旨の遺言を残していました。Aさんはそれを妹に手紙で知らせ一件落着したと思っていたのですが、妹は遺産分割に納得していなかったのです。

遺留分は法律で認められた最低限の相続分で、遺言によっても侵害できません。遺留分が認められるのは法定相続人のうち配偶者と子どもで、子どもがいない場合は親に限られます。兄弟姉妹には遺留分はありません、原則として法定相続分の2分の1が遺留分となりますが、親だけが相続人の場合は相続財産の3分の1です。

子ども2人だけが法定相続人の場合、法定相続分は各2分の1。遺留分は全体が2分の1で各自は4分の1となります。
遺言で遺留分が侵害された人は、侵害している人に侵害相当分を請求できます。これを「遺留分減殺請求権」と言います。例えば、Aさんの例では、Aさんの妹は遺産をすべて相続した兄に対し侵害分(遺産の4分の1)相当の金員の支払いを請求できます。この請求権は、相続開始があったことを知ったときから1年間行使しない場合、又は相続開始を知らなくても開始から10年たつと時効で消滅します。

 

生前贈与も考慮する

遺留分を請求された側は遺留分に相当する分を金銭などで補償する必要がありますが、請求された側の手元に十分なお金が残っていない場合もあります。

また、遺留分算定の基礎となる遺産は、親の子どもへの生前贈与分なども加味して決めるので、相続開始時点の遺産が少ない場合でも生前贈与額が多ければ遺留分も大きな金額になりがちです。
遺留分をめぐる争いを避けるためには、まず親が特定の子どもの遺留分を侵害しない遺言を作成することで、遺留分を侵害した遺言も法律的には有効で、遺留分権利者が遺留分減殺請求をしなければ遺言のとおり遺産を取得することに問題はありません。ただし、権利は尊重する必要があります。

遺言の「付言」で「なぜ特定の人に多くの財産を相続されるか」の理由を記載するのも一つの方法です。付言には法的拘束力がないため遺留分減殺請求を完全に阻止することはできないのですが、親の心情を書くことで一定の効果は見込めそうです。

子どもの側も、親に自分にだけ極端に有利な遺言を書くよう依頼するのは避けたいものです。例えばAさんのケースで、Aさんが「同居の母親の介護と生活費を負担してきたので全財産の相続は当然」と主張したとしても、妹は遺留分請求ができます。介護で苦労したなどの事情をどれだけ分割に反映させるかは、事前の兄弟姉妹間のコミュニケーションで解決しておきたいところです。

なお、かなり多額の生前贈与を受けた子どもは、あらかじめ家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することもできます。実際にはあまり例がないのですが、争いを避ける1つの方法ではあります。
不幸にして遺留分をめぐる争いとなった場合でも、納得いくまで話し合う必要があります。
遺留分をめぐる紛争は家庭裁判所の領域ですが、長引くことが多いようです。

 

法定相続分と遺留分(カッコ内は遺留分)

・子どもと配偶者 →法定相続分 子ども2分の1、遺留分(4分の1)
→法定相続分 配偶者2分の1、遺留分(4分の1)
・子どものみ   →法定相続分 全部、遺留分(2分の1)
・父母と配偶者  →法定相続分 父母3分の1、遺留分(6分の1)
→法定相続分 配偶者3分の2、遺留分(6分の2)
・父母のみ    →法定相続分 全部、遺留分(3分の1)
・兄弟姉妹と配偶者→法定相続分 兄弟姉妹4分の1、遺留分(なし)
→法定相続分 配偶者4分の3、遺留分(2分の1)
・兄弟姉妹のみ  →法定相続分 全部、遺留分(なし)
・配偶者のみ   →法定相続分 全部、遺留分(2分の1)

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。