相談内容

先日、夫が亡くなり相続財産を調べたところ、妻名義の預金1000万円がありました。この預金のルーツをたどったところ、10年以上前に作られたものとわかり、
「贈与税は時効」と考え、相続財産から除外して申告しました。

すると、後日税務署からその預金の実質的な所有者は被相続人であると認定され、相続税が課税されてしまいました。なぜ時効が認められないのでしょうか。

当センターの見解

結論から言えば、「贈与の方法」、あるいは「贈与の事実の証明」に問題があった結果、「名義預金」と判断され、相続税の課税対象と見なされてしまったと考えられます。

因みに「名義預金」とは、親族に名義を借りて預金をしているに過ぎない預金のことをいいます。

同じ財産の贈与でも、不動産の場合は登記制度がありますから、所有権が移転された事実はそれで証明できますし、実際の所有者が誰であるかの立証も容易であるため、相続開始時に被相続人以外の者の名前で登記されている財産は、被相続人のものではないことは明らかです。

もっとも、このことは逆にいえば、不用意に名義変更をすると、ただちに課税されるため、ご注意ください。

 

先ず、贈与税の時効とは

贈与の時効とは、定められた期間を超えると、贈与税が課税されなくなる制度です。贈与後、6年です。

ただし、これは知らないうちに贈与していて、申告することを忘れていた場合です。しかし、わざと申告せずに、贈与税を支払っていなかったとすれば、時効は1年間延長され、7年となります。

 

なぜ10年以上前に作られた妻名義の預金に、時効が適用されなかったか

預貯金など金融資産の場合、預金の「名義」はほとんど証明力をもっていないのです。

つまり、税務の扱いでは、預金の名義人=その預金の所有者、ということにはならないわけです。

みなさんの回りを見てください。家族名義の預金のない家庭はほとんどないのではないでしょうか。妻名義の預金、また学生のお子さん名義の預金が1つや2つはありませんか。

この場合、普段はなんの問題も起こりませんが、いざ相続が開始されるとトラブルが生じることが多いようです、その預金の本当の所有者は誰かを巡って、トラブルになることが多いのです。

たとえばその預金が、被相続人である夫から、生前に妻にきちんと贈与されたものであれば、それは勿論妻の財産となり、相続財産ではありません。そうでなければ、いわゆる「名義借り」=「名義預金」です。

夫は、単に妻の名前で預金をしていたにすぎないのです。いくら妻が、それは私のものであると叫んでも、税法上は認められない可能性が高いと思われます。

今回の相談の場合であれば、贈与税が課税されない範囲である、年間110万円ずつを毎年妻に贈与した、という「事実の証明」ができなかったり、通帳や印鑑を妻ではなく被相続人が管理していたりしたこと等が証明できなければ贈与と認められないでしょう。

したがって、預貯金等の生前贈与を行うときは、明らかに妻や子供の財産になったことを後日になってもわかるよう、それなりの手順を踏んでおく必要があるのです。

贈与はこうしてすればいいのです

では、実際にどのように贈与したらよいのでしょうか。贈与という行為は、「あげた」「もらった」というお互いの合意のうえ成立するものですから、預貯金の贈与では、少なくとも次のような点に注意が必要です。

➀贈与者の預金口座から贈与分を引き出し、受贈者の預金口座に振り込む。
➁受贈者の預金は、出来る限り相続時まで引き出さない。引き出すときは、受贈者が何のために、何に使ったかをメモしておく。
➂通帳や預金証書は、受贈者自身が保管し、届出印鑑も贈与者のものと別にして本人が保管する。
➃贈与契約書をつくる。
➄贈与額が年間110万円を超えるときは、必ず贈与税の申告をする。
預貯金の贈与というのは、誰にでも容易にできる相続対策ですが、それだけに慎重な対応をしておかなければなりません。

111万円の贈与は有効なのか?

ところで、「111万円の贈与」という話をご存知でしょうか。毎年111万円ずつ子供に贈与し、1000円の贈与税を納めておくという方法です。

どうやらこれは、「贈与の証明」を得るための方策のようです。
たしかに贈与税111万円の贈与税を計算してみますと、1000円になりますし、税務署にその旨を申告しておけば、申告書そのものが贈与の立証材料になります。

要は証明できるかどうかではありますが、しかし、110万円の贈与でも111万円の贈与でも、それなりの手順を踏んでおかなければならないわけで、これを怠ると、たとえ贈与税の申告をしていても、後日のトラブルが生じます。

逆にいえば、110万円以下の贈与であっても、それなりにきちんとしておけば、生前贈与が否認されることはないということです。それよりむしろ、111万円という贈与が相続対策として有効かどうかを、よく検討してみることが大切です。

「111万円」とか「1000円」という金額にこだわらず、相続財産をしっかり把握し、場合によっては110万円を超える金額でも贈与して、贈与税を支払っておく方が節税になる場合もあるのです。

専門家に相談を

今回のご相談の場合、相続税の税務調査が入り、「奥様の通帳の1000万円は、実質的には旦那様の預金であるため、贈与は成立しません」「名義預金です」と言われてしまったら、いくら反論しても認められないことが多いのが実情のようです。

時効を主張するつもりならば、贈与契約書を作り、贈与税の申告をしておくべきでした。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
贈与は上手く使えば、相続税を節約することもできます。もし、迷われたら是非とも専門家に相談をしてください。