父が亡くなったので遺品の整理をしていたら、遺言書の封筒が見つかった。
これは勝手に開けて中身を見ていいの…?

突然遺言書が見つかったら困惑してしまいますね。
もし、遺言書が見つかったらどのように処理すればよいのでしょうか?

遺言書は勝手に開けてはいけない!

遺言書は、勝手に開けてはいけません。
なぜなら、民法第1004条にて定められているからです。

1. 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2.前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3. 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

簡単に説明すると、
・遺言書が見つかったら家庭裁判所に提出して「検認」(相続人などの立会いの下、遺言書の開封と中身の確認を行うこと)を請求する。
・遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があるが、そのうち公正証書遺言については検認の必要は無い(遺言の種類の詳細については後述します)。
ということです。

なぜこのような内容が条文で定められているのかというと、遺言書を勝手に開けて中身を変えられたり隠したり捨てられたりしても、それを書いた本人である被相続人(亡くなった人)に確認することはできないからです。

この民法第1004条を犯し、勝手に遺言書を開けてしまった場合、5万円以下の過料が科せられます。
また、財産欲しさに遺言書を書き換えたり、他の相続人に遺産が渡らないよう隠したり捨てたりした場合は、相続人としての権利を失います。
相続人の欠格事由を定めた、

民法第891条第5項
「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」

に該当する為。

遺言書の種類と正しい開封方法

ここからは遺言書の種類と、それぞれの開封方法を確認していきましょう。

①自筆証書遺言書

もっともシンプルな遺言書で、紙とペンと印鑑さえあれば、個人で費用をかけずに作成することができます。証人も必要ありません。ただし、全文を自筆で作成する必要があります。
一般的には封筒に入れて、第三者に開封されたり書き換えたりされないように保管します。
簡単な分、民法に定められている遺言書の条件を満たさなかったり、内容が不透明の場合は遺言書として認められなかったり、遺言書の内容によって不利益を受ける相続人に捨てられてしまうなどのリスクもあります。

開封方法は、先述したとおり家庭裁判所にて検認の請求をします。

②公正証書遺言書

遺言者が公証人に遺言の内容を伝えて、その内容をもとに公証人が遺言書を作成するものです。遺言書の原本は公証人役場で保管される為、遺言書を無くしたり、書き換えられたりする心配はありません。また、公証人が作成する為、遺言が無効になることもありません。(遺言者には謄本が手渡されます。)
公正証書遺言書の作成には証人が二人必要ですので、内容を完全に秘密にすることができず(ただし、専門家に依頼すれば守秘義務があるので安心です)、また公証人役場に支払う費用がかかります。

公正証書遺言書は検認の必要がありませんので、速やかに相続手続きを開始することができます。もし、公正証書遺言書を作成していることがわかっていても謄本が見つからない場合には、昭和64年1月1日以降に作成されたものであれば、日本公証人連合会の遺言検索システムで、全国のいずれの公証役場からでも公正証書遺言書の原本を保管している公証役場を調べることができます。

③秘密証書遺言書

これは、遺言者が遺言書を作成して、その遺言書を公証人の所まで持っていき、遺言書の内容を秘密にしたままで、遺言書の存在だけを公証人に確認してもらう方法の遺言です。

ただ存在を確認してもらうだけですので、公証人も内容の確認ができないため、自筆証書遺言書と同じく遺言書の条件を満たさなかったり、遺言書の保管も遺言者が行いますので紛失したり、隠されたりする可能性があります。

そして開封方法も自筆証書遺言書と同じく家庭裁判所で検認の請求をしなければなりません。

遺言書できちんと効力を発揮する内容とは

遺言書の記載内容は、なんでも法的な拘束力を発生させるものではありません。
例えば「息子一郎に限り我が家に入ることを禁ずる」などの無茶苦茶な遺言は認められません。
遺言として法的効力を生ずる事項については民法などの法律によって定められています。これを「遺言事項」と言います。

遺言事項は大きく分けて「財産に関する事項」「身分に関する事項」「遺言執行に関する事項」の3つにわけることができます。

①財産に関する事項

●相続分の指定

遺言書が無い場合は法定相続分(民法で定められた財産の取り分の事)の相続をしますが、遺言書によって相続割合を決めることができます。

●遺産分割方法の指定

具体的に、持っている財産を誰にどのように分けるかという内容を遺言書に残しておくことによって、効力を生じさせることができます。指定が無ければ法定相続分での相続になります。

●遺贈

遺言書にて「遺贈をする」という旨の記載をしておけば、相続人(配偶者や子供、親兄弟など)以外の人に財産をあげることができます。

●その他

以下の事項も、遺言書にて効力を発生させることができます。
・祭祀主催者の指定(先祖を祭り、供養するものを祭祀財産と言い、これを管理していく者を祭祀主催者と言います。)
・特別受益の持ち戻しの免除
・相続人相互間の担保責任の指定
・遺留分減殺方法の指定
・一般財団法人の設立・財産の拠出
・生命保険受取人の変更
・信託の設定

②身分関係に関する事項

●認知

原則は生きている間に行うこととされている認知ですが、遺言での認知も法律上効果があるとされています

●その他

・未成年後見人の指定・未成年後見監督人の指定
・推定相続人の遺言廃除・取消し

③遺言の執行に関する事項
きちんと遺言の内容を実行してもらうために、「遺言執行者の指定」をすることができます。遺言執行者は、未成年者や破産者以外であれば、法人や信託銀行など、誰でもなることができます。

遺言書を勝手に開けられないようにするためには

話を少し戻しますが、遺言書は勝手に開けてはいけないと定められていますが、「遺言書」などと何も書かれていないただの封筒などを遺言書が入っていると知らずに開けてしまうこともあるかと思います。
知らずに開けてしまっても、過料が科せられることに変わりはありませんので、遺言書を書いた際には、相続人に対して配慮をする必要があります。

●二重封筒に入れておく

二重にしておけば、知らずに封筒を開けてしまったとしても、遺言書が入った大切な封筒をうっかり開けてしまうということは防ぐことができます。
さらに「開封せず家庭裁判所に持っていき、検認してもらうこと」などのメモを付けておくなどしておけば、なお良いでしょう。

●公正証書遺言書にする

いくら工夫をしたところで、内容が無効なものであればせっかくの遺言書の意味がありません。費用は掛かってしまいますが、専門の公証人に作成を任せて、効力のある遺言書を作成し、公証人役場に遺言書を残し、知らずに封筒を開けさせることや、書き換え・紛失の心配を無くすことは、一番確実でしっかりと相続人に対しての配慮ができる方法ではないかと思います。

遺言書が出てきたらどうする?

とにかく遺言書が入っている封筒を発見したら、絶対に封筒を開封せず、最寄りの家庭裁判所に検認の請求をしましょう。そして、速やかに法定相続人全員に「遺言書が出てきた」と連絡をしましょう。遅くなれば、他の相続人に怪しまれてしまう可能性があり、その後のトラブルになりかねません。
検認が始まるまでの間、遺言書は大切に保管して、紛失などしないよう気を付けてください。

もし、見つかった遺言書が公正証書であれば、検認の必要はありませんが、開封は相続人が集まった時にすることをおすすめします。

最後に、資産が莫大な金額だった場合や、家庭環境が複雑だった場合は、一度、当センターに相談してから遺言書を開封するほうがトラブルを避けられるかもしれません。

まとめ

遺言書は被相続人の最後の意思を尊重するものです。
せっかくの意思を無駄にしないためにも、まずは作成するところからきちんと間違いないように作成し、そして相続人にもしっかりと配慮しておきましょう。
また、相続人も、開封の際は十分に注意をして下さいね。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続には様々な形があり、手続きや申請方法もケースによって異なります。専門知識が無い方は申請書の不備等で無駄な費用が掛かってしまう可能性もありますのでしっかりと相談することをおすすめします。