家族信託は家族の希望に添った管理・承継するための枠組み

家族信託というのは、家族への財産の承継や管理を信託の仕組みを使って行うものです。
遺言制度や後見制度に代えたり、信託を遺言書や後見制度と一緒に利用したりすることによって、被相続人自身の希望にしたがった財産の承継や管理ができます。

 

家族信託が注目される理由

➀認知症への備え

家族信託が注目されるようになった理由の最も大きなものは、認知症への備えがあります。
厚生労働省が2015年に公表したデータによると、認知症患者は2025年には約700万人になり、65歳以上の1/5になるそうです。
相続問題でも認知症はよく話題になっていますが、判断能力が認知症などによって下がってくれば、相続対策も資産が凍結になるためできにくくなります。

➁任意後見制度に限度があるため

任意後見制度が認知症対策として盛んに利用されるようになってきました。
任意後見制度というのは、財産の管理をする後見人を被相続人が元気な時に選んでおくものです。
しかし、実際には、被相続人の判断能力が下がってから利用するようになります。
なお、裁判所の監督下に財産が置かれて保全することが要求されるため、実際には利用しにくいこともあり、任意後見制度はそれほど利用されない場合が多くあります。

➂財産の承継に安心感がもてる

家族信託の場合は、受託人によって資産の運用と管理が信託契約する時点でスタートします
そのため、メリットとして、被相続人が資産の運用や管理の状況を見届けられるということがあり、資産の承継が被相続人が元気な時にできるため安心感があるそうです。

しかし、身上監護権が受託人にはないため、老人ホームなどに入る際は、契約手続きが本人の代わりにできません。
一方、身上監護権が任意後見制度の場合は認められているため、任意後見制度を場合によっては併用することも必要でしょう。
任意後見制度を利用するかどうかの判断は、少し難しいところもあるため、もし迷った場合は弁護士などに相談するのがいいでしょう。

 

●家族信託そのメリットは?

・遺言書ではできないことが可能

普通の遺言書の場合は、財産を承継する人を自分が亡くなった後に起きる相続に関しては指定できません。
一方、家族信託の場合は、契約などで決めると、自分が亡くなった後、財産を承継した人が亡くなった際、次に財産を承継する人が指定でき、自分が亡くなった後、家族信託が終わった際に財産を相続する人が指定できます。
また、遺言書の代わりに家族信託はなります。

・親の財産管理が容易に行える

高齢になって、子供に自分の財産の管理を任せたいと思った際、判断能力が認知症などによって無くなっていなければ後見人はつけられません。
このような場合は、委託者兼受益者に親をして、受託者に子供をして、信託契約を親の財産について行うことによって、判断能力が自分にあるうちに、財産の管理を子供に任せることができます。

・後見制度に代わる柔軟な財産

成年後見人は、財産の管理を判断能力が本人にあるうちはできません。

しかし、家族信託の場合は、判断能力が本人にあるうちから、財産の管理を自分が希望する人に任すことができます。
当然ですが、判断能力が下がった後も、財産の管理を受託者が行うことができます。
基本的に、成年後見人が管理している財産は、投資したり、贈与したりすることはできません。
財産を投資したり、贈与したりするために家族信託をすると、判断能力が本人に無くなった後も、その財産を投資したり、贈与したりすることができます。

 

家族信託の手続き方法とかかる費用

家族信託の手続き方法としては、受託人と委託人の信託契約、委託人の遺言書によるもの、受託人と委託人が行う信託宣言があります。
家族信託にかかる費用は、ケースによって違いますが、最低限必要なものは次にご紹介するようなものです。

・公証役場で信託契約書を公正証書にする際に1通について700円
・司法書士費用と登録免許税としては、建物の場合は固定資産税評価額の4/1000、なお土地の場合は固定資産評価額の3/1000
・受益者代理人や信託監督人を置くと月額1万円~

家族信託は、ほとんどの場合は弁護士や司法書士に頼むでしょうが、手数料はだいたい財産の0.1%~1.0%かかります。

 

家族信託まとめ

家族信託というのは、家族への財産の承継や管理を信託の仕組みを使って行うものです。
注目される理由は、認知症への備え、任意後見制度に限度があるため、財産の承継に安心感がもてる、ことが挙げられます。
メリットとしては、遺言書ではできないことが可能、親の財産管理が容易に行える、後見制度に代わる柔軟な財産、が挙げられ、手続き方法としては、受託人と委託人の信託契約、委託人の遺言書によるもの、受託人と委託人が行う信託宣言があります。

家族信託にかかる費用は、ケースによって違いますが、ここでご紹介したような費用が最低限必要なものです。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。