Q:内縁の妻の相続分はどうなりますか?
また、内縁の妻との間に生まれた子供の相続分はどうなりますか?
A: 内縁の妻であり戸籍上の配偶者でなければ、遺言がない限り相続をすることはできません。
なお、現在(平成25年9月5日以降に開始した相続)では非嫡出子も嫡出子と同じ割合の相続分が認められます。
婚外子の相続
Aさん(享年77歳)には結婚して50年になる妻Bさん(75歳)と、その間にもうけた長男のCさん(49歳)、長女のDさん(46歳)がいました。もっとも、妻のBさんは35年前に性格の不一致から「もう一緒にすむことはできない」と言って、一方的に長男のCさんと長女のDさんを連れて別居をしていました。
Aさんは、Bさんと離婚をすることはなく、別れて暮らしていても子供たちの養育費は支払い続けてきました。子供たちとは、年に数回程会う程度でした。Aさんが47歳の時、たまたま知り合ったEさんと恋仲になり、その後内縁関係となり同居を開始しました。
Eさんとの間にはFさんが生まれました。Aさんは、EさんとFさんと一緒に生活をし、Aさんの闘病生活中は、EさんとFさんが甲斐甲斐しく介護をしていました。他方、CさんDさんとは、Eさんのとの同居をきっかけに疎遠になってしまい、ほとんど交流はなくなっていました。
平成23年11月にAさんが亡くなりましたが、Aさんは遺言を遺していませんでした。Aさんの遺産は、自宅不動産(時価4500万円)があるだけで、他にめぼしい財産はありません。
2人の妻たちの相続分はどうなる?
内縁の妻であるEさんは、Aさんと28年寄り添ってきましたし、介護もしています。他方、戸籍上の妻であるBさんは、一方的に別居したまま、夫婦としての実態はありません。そのような場合でも、Eさんに相続権はないのでしょうか。
結論から申し上げると、内縁の妻であるEさんには相続権がありません。いくら28年もの間寄り添っていて夫婦としての実態があったとしても、内縁の妻であり戸籍上の配偶者でなければ、遺言がない限り相続をすることはできないのです。
他方、戸籍上の妻であれば長く別居をしていたとしても2分の1の相続分が認められます。例えば、離婚協議中であっても離婚が成立していない限り、妻には相続分あるのです。したがってBさんには2分の1の相続分が認められます。
子供たちの相続分はどうなる?
内縁の妻であるEさんの子、Fさんは婚外子(非嫡出子)ということになります。非嫡出子であっても相続分は認められます。ただ、長らく、非嫡出子の相続分は嫡出子(婚姻関係にある父母の間に生まれた子)の相続分の半分とされていました(民法900条4号ただし書)。
平成23年11月にAさんが亡くなった当時、Fさんの相続分は、CさんDさんの2分の1しか認められていなかったため、Aさんの遺産についての相続分はBさん(配偶者)が50%、CさんDさんがそれぞれ20%ずつとなり、Fさんの相続分はわずか10%にすぎませんでした。ところが、平成25年12月に民法が改正されたことから、現在では非嫡出子も嫡出子と同じ相続分が認められていますので、50%を子3人で分けることになります。
同居の事実は考慮されるのか?
Fさんは、亡くなるまで健一郎さんと同居し、介護をしていました。他方、他の相続人は同居もしておらず、むしろほとんど交流がありませんでした。
そのような場合、Fさんの相続分は増えるのでしょうか?
相続についていろいろな解説があり、1人だけ同居をして親の介護をしていたような場合には「寄与分」が認められる場合もあります。
寄与分とは?
「寄与分」とは、被相続人の生前、被相続人の財産の維持または増加に貢献したものがいる場合、それを遺産分割において考慮するための制度です。この「寄与分」が認められれば、Fさんの相続財産は増えることになります。
しかし、「寄与分」はなかなか認められないのが実情です。寄与分が認められるには、それが「特別」のものと認められる必要があります。
家庭裁判所の基準では、介護について寄与分と認定できるかは、➀療養看護の必要性、➁特別の貢献、➂無償性、➃継続性、➄専従性などの基準に基づいて判断していきます。
例えば、仮に要介護1の状態では、①特別な療養看護の必要性が認められないと判断されるケースは多いです。
また、➄専従性については、会社を辞めて介護をするということまで求められるものではないですが、働いている傍らで自宅にいるときに介護をしていたという程度では認定されないことが通常です。
➂無償性との関係では、親の持ち家で同居し、家賃負担などを一切していない場合、居住の利益という対価があると判断されることもあります。
この事例で、Fさんは、仕事も辞めておらず、Aさんの所有する自宅に無償で同居をしていたので、寄与分の認定は困難であると考えられます。
住んでいる住宅にそのまま住めるのか?
Fさんは、母Eさんと住んでいた不動産にそのまま住み続けることを希望していました。
Bさんら他の相続人は、相続分については譲歩するつもりがないとのことで、相続分を代償金として支払ってもらえるのであれば、不動産は相続してよいと主張してきました。
そうすると、住宅を相続するためには、不動産の価値の90%(民法改正前のFさんの相続分である10%を除いた他の相続人全員の割合)である約4050万円を代償金として支払う必要がありますが、そんなお金は用意できません。これでは、家を出てEさんと借家住まいをすることになってしまいます。
最高裁判決で相続分が半分という条文は無効に
Fさんは、非嫡出子の相続分が嫡出子の2分の1であることは差別的であると主張しました、Bさんらは、「気持はわかるけど、法律で決められている以上は・・・」と取り合ってくれませんでした。
しかし、平成25年9月4日、最高裁判所は、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書については、憲法14条1項で定める法の下の平等に反するとして無効と判断しました。
この判決を受けて、平成25年12月5日、民法が改正され、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする規定は削除されました。民法の改正手続き上は、平成25年9月5日以降に開始した相続について適用されることになっています。
最も、最高裁判決においては嫡出子と非嫡出子との相続分を平等にするという判断の効力は、平成13年7月1日以降に開始した相続で遺産分割が未了のものについてもさかのぼるという判断をしています。
その結果、平成23年11月に相続が開始したAさんの事案では、嫡出子も非嫡出子も相続分が平等になることになりました。
これによりFさんの相続分は、16.66%になり、代償金の金額も4050万円から3750万円と約300万円少なくなりました。それでも、不動産を取得するための代償金は多額です。結局、話し合った結果、家は売却して、相続分を分けることにしました。Fさんとしては「母や自分の生活を考えるのであれば、父には、遺言を書いておいてほしかった」との思いはありますが、不合理な差別によって生じる不利益はなくなったことで一つ、心のモヤモヤが晴れたとのことでした。
非嫡出子の相続分も平等になりましたが、改正には法律婚を軽視するものだなどの批判があり、賛否両論がありました。実際に、嫡出子や法律上の配偶者から非嫡出子に対する感情は複雑なものが見受けられます。
相続分が平等になっても、相続人が感情的に対立して、もめやすいという状況には変わりがないかと思います。非嫡出子がいる場合には、遺言書を作成しておくことをお勧めします。
また、内縁の妻に相続させるには、遺言が必要不可欠です。遺言を作成していたとしても戸籍上の妻や嫡出子には最低現相続できる権利(遺留分)は残りますのでその点も注意が必要です。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。