2018年3月に、政府が居住権の新設を含む民法改正案を閣議決定しました。
新設される「居住権」とは一体どのような権利なのでしょうか?
特にこれから相続を控えている方は要チェックの内容です!

今回の民法改正案の内容とは?

今回の相続に関する民法改正案の大きなポイントは
・配偶者の居住の保護について
・遺産分割について
・遺言制度について
の3つの改正です。

そのうちまず「配偶者の居住の保護について」についてみていきます。
どのような内容かというと、「自宅の権利を所有権と配偶者の居住権に分ける」という案です。
配偶者が遺産分割の際に居住権を取得できるようになるため、自宅の所有権が別の相続人や第三者に設定されたとしても自宅に住み続けることができるようになります。居住権の算出方法はまだ定まっていないようですが、評価額は残された配偶者の平均余命などを基に算出されるようです。高齢であるほど評価額が安くなると言われています。
現行で所有権を得るよりも低額となり、預貯金などの取り分も増えることになる。

わかりやすく例を挙げると

・相続人…配偶者(妻)、子供(長男、次男)
・自宅評価額…2,000万円
・預貯金額…1,000万円

このケースで法定相続をした場合
法定相続分(民法で定められた財産の取り分の事)は
妻…1,500万円(法定相続分は2分の1)
長男…750万円(法定相続分は子供全員で残りの2分の1を分けるため4分の1)
次男…750万円(同上)
となります。この場合自宅評価額が、妻の相続分の1,500万円を超えてしまいますので、子供たちが法定相続分を全額要求してきた場合は250万円ずつを捻出しなければならなくなります。(相続人の一部の人が相続財産を現物で取得する代わりに、他の相続人にその代償として支払われる金銭で、代償金と言います。)
現金を持っていれば代償金を捻出できるでしょうが、そうでなければ自宅は手放さなくならなければなります。

そこで新設される「居住権」を使うと、例えば
妻の居住権…評価額1,000万円
長男の所有権…評価額500万円
次男の所有権…評価額500万円
という分け方ができるようになります。
すると、妻の法定相続分は1,500万円ですので、自宅に住み続けることができる上に現金500万円を受け取ることができる、というわけです。
自宅に住み続けることができる、また老後の生活も受け取ることができます。この権利の最大のメリットです。

居住権が新設される背景とは

なぜ、この居住権が新設されたのかというと、先ほど触れたように、遺産分割協議をした結果、配偶者が他の相続人に対して代償金を支払わなくてはならなくなった場合に、その代償金が用意できなければ自宅を手放さなければならなくなるという問題があったからです。
代償金だけではなく、自宅を売ってそのお金を分ける場合も、引っ越しをしなくてはなりません。
また、遺言書によって被相続人が自宅を配偶者以外の相続人に相続させた場合は、その相続人に立ち退きを要求されれば、配偶者は自宅を出て行かなければならなくなる可能性があるなど、様々な問題がありました。

相続開始時点では既に高齢になっている配偶者が、今まで住み慣れた自宅を出て、新しい生活を始めることはかなりの負担があると考えられたため、新たに居住権を新設し、この負担を防ぐことを可能にしたのがこの配偶者の居住権というわけです。

配偶者の居住権の種類

配偶者の居住権は二種類あります。

●短期居住権
短期居住権は、「相続開始時(被相続人が亡くなった時点)に、遺産となる建物に住んでいた配偶者は、遺産分割協議の内容が実行されるまでの間はその建物に無償で住むことができる権利」です。
期間は民法第395条の「抵当建物使用者の引渡しの猶予」の規定と類似していることから、6ヶ月程度が妥当ではないかという案が出ているそうです。
短期居住権は一時的な居住権の保護が目的となっており、第三者への権利の譲渡や転貸は認められません。

短期居住権の成立要件は、「配偶者が相続開始時に遺産となる建物に住んでいたこと」です。

●長期居住権
長期居住権は、「相続開始時(被相続人が亡くなった時点)に、遺産となる建物に住んでいた配偶者は、一定期間または終身、その建物に無償で住むことができる権利」です。
期間は数十年から終身までと、長期にわたって配偶者が自宅に住むことができるようになります。
また、長期居住権は、所有者の承諾があれば、第三者への権利の譲渡や転貸が認められます。

長期居住権の成立要件は以下の通りです
・配偶者が相続開始時に遺産となる建物に住んでいたこと
・以下のいずれかの条件を満たすこと
(1)遺産分割協議によって、配偶者が配偶者居住権を取得すること
(2)配偶者居住権が被相続人の遺言によって遺贈の目的とされていること
(3)被相続人と配偶者との間に、配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があること

民法改正案のその他のポイント

初めに相続に関する民法改正案の大きなポイントは大きく3つと書きましたが、残りの二つはどのようなものなのでしょうか。

●遺産分割について
婚姻期間が20年を経過している夫婦で、配偶者から自宅を生前贈与された、又は遺言によって与えられた場合は、原則として遺産分割の計算対象から外されます。
これまでの制度では、自宅以外の遺産が少なかった場合に、遺産を相続人同士で分け合うために自宅を売却しなければならないケースがありましたが、この制度を利用することで配偶者は自宅に住み続けることができるようになります。

婚姻期間が20年を経過しておらず、贈与の意思表示をなされなかった場合は制度の対象外となるので注意です。

●遺言制度について
これまでは完全自筆でないと認められなかった自筆遺言制度が緩和され、財産目録についてはパソコンで作成し、その文書に遺言者の署名・捺印があれば有効とされるようになります。
財産目録の内容は、不動産の所在や地番・地積などの詳細、預貯金の口座番号など、財産を特定するものです。

配偶者が自宅に住めるようにしてあげる為には遺言書を

遺産分割協議をした結果、配偶者がこれまで通り自宅に住み続けようとした場合、先述したとおり代償金を支払ったり、配偶者居住権を取得する必要があります。
長期居住権を取得するためにも、また遺産分割協議にて遺産分割協議の計算対象から外すためにも、被相続人が生前に遺言書を作成し、「自宅を妻に相続させる」という旨をハッキリさせておくことが一番効果的です。

遺言書で効果を発生させることができる内容

遺言書は何を書いても良いわけではなく、効果を発生させることができる項目は、民法などで定められています。
その内容は以下のようなものです。

①財産に関する事項

●相続分の指定

遺言書が無い場合は法定相続分(民法で定められた財産の取り分の事)の相続をしますが、遺言書によって相続割合を決めることができます。

●遺産分割方法の指定

具体的に、持っている財産を誰にどのように分けるかという内容を遺言書に残しておくことによって、効力を生じさせることができます。指定が無ければ法定相続分での相続になります。

●遺贈

遺言書にて「遺贈をする」という旨の記載をしておけば、相続人(配偶者や子供、親兄弟など)以外の人に財産をあげることができます。

●その他

以下の事項も、遺言書にて効力を発生させることができます。

  • 祭祀主催者の指定(先祖を祭り、供養するものを祭祀財産と言い、これを管理していく者を祭祀主催者と言います。)
  • 特別受益の持ち戻しの免除
  • 相続人相互間の担保責任の指定
  • 遺留分減殺方法の指定
  • 一般財団法人の設立・財産の拠出
  • 生命保険受取人の変更
  • 信託の設定

②身分関係に関する事項

●認知

原則は生きている間に行うこととされている認知ですが、遺言での認知も法律上効果があるとされています

●その他

・未成年後見人の指定・未成年後見監督人の指定
・推定相続人の遺言廃除・取消し

③遺言の執行に関する事項

きちんと遺言の内容を実行してもらうために、「遺言執行者の指定」をすることができます。遺言執行者は、未成年者や破産者以外であれば、法人や信託銀行など、誰でもなることができます。

また、法的な効力はありませんが、「付言」として、残された家族に感謝の気持ちや遺言の内容に関する思いを書いて、相続人に気持ちを伝えることができます。
大切な配偶者を自宅にずっと住まわせてあげたい、財産を残してあげたい…。その気持ちを大切にしてもらうためにも、付言をつけておくのも良いかもしれませんね。

ただし、遺言は書き方を間違えると効力を発揮しません。
できれば公正証書遺言など、専門の公証人に遺言書の作成を手伝ってもらったりするほうが良いでしょう。

まとめ

成立すれば、1980年以降、38年ぶりとなる民法改正。
残される配偶者を心配している方には、ぜひ成立してほしい改正案ですね。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
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