1.故人の介護に貢献したのだから…
今回の相談者のお母さんは障害を抱えており,介護なしには日常生活を送ることも難しいような状況でした。お父さんを早くに亡くしており,二女である妹さんは結婚して遠方に住んでいたことから,長女である相談者が,一人でお母さんの介護を献身的に行ってきました。
一方で,妹さんはご主人の両親の介護で手がいっぱいであり,尚且つ,お子さんもいたことから,お姉さんに対して金銭的な援助をすることは難しい状況でした。そのため,相談者は結婚も諦め,仕事も儘ならず,お父さんの遺した財産で細々と生活されていたようです。
そのような状況が25年も続いた結果,遂にお母さんはお亡くなりになりました。故人であるお母さんの相続財産としては,1500万円程の預貯金と,お父さんから相続した自宅不動産がありました。そこで,相談者は長年にわたる故人の介護を一身に背負ってきたことを以って,妹さんに対して相続分を放棄してほしい旨を通知しましたが,そもそも,相談者の主張は正しいのでしょうか。
2.「寄与分」とはなにか
本件については,寄与分が認められるか否かが問題になります。
それでは,そもそも「寄与分」とはなんでしょうか?相続人の中に,上記の相談例のように故人に対して特別な貢献をしたり,故人が代表を務めていた会社経営を手伝ったり,故人の財産の維持又は増加に特別な貢献をした相続人がいた場合,それを考慮せずに遺産分割を行なうと不公平が生じてしまうこともあるかと思います。
そこで相続人間の実質的な公平を図る観点から,遺産分割協議を行なうに際し,特別な貢献をした相続人については,本来の相続分に加えて,その貢献した程度に応じた分だけ多く財産の分割を受けることが認められています。その貢献した相続人が,多く取得できた分を「寄与分」といいます。
3.寄与分が認められるためには
民法では,寄与分が認められるためには,以下の要件をクリアする必要があると定めています(民法第904条の2)。
①相続人であること
上記の例で説明すると,相談者は相続人になりますが,仮に故人に兄弟姉妹が存在し,兄弟姉妹が故人の療養・介護を負担されていたとしても,現時点では相続人にならないため,どれだけ故人の財産の増加に寄与したとしても,兄弟姉妹には寄与分は認められません。
②「特別」の寄与であったこと
民法では,夫婦間の協力及び扶助の義務(民法第752条),直系血族(親子間)及び兄弟姉妹の扶養義務(同第877条),直系血族及び同居の親族の相互扶養義務(同第730条)が定められており,その扶養義務の範囲内の行為であれば,寄与分とは認められません。ここでいう「特別」の寄与とは,身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献でなければならないと考えられます。
寄与分に該当する行為として,故人の事業に関して労務を提供したこと,財産上の給付をしたこと,故人に対する療養看護,などが挙げられています。そして,それらの寄与行為が「特別」の寄与行為であることが必要になります。
例えば,故人の行っていた事業に,無報酬若しくはそれに近い状況で労務を提供したり,故人に代わって債務の返済等を行ったり,故人の療養看護にあたり医療費等の支出を抑えたり,本来複数の相続人が負担すべきであった扶養義務を一手に担うなどして,財産維持に貢献した場合などが,特別の寄与行為に当たるとされています。
故人の事業に従事していたとしても,従業員として相応の給料を受け取っていたり,給料として支給されている額が少額であっても,生活全般が故人の収入等で賄われていたり,故人所有の不動産に無償で生活していたりするなどの事情があると,寄与と認められないこともあるようです。
③ 故人の財産の「維持」又は「増加」があること
相続人による貢献が寄与分として認められるためには,その貢献によって被相続人の財産が維持又は増加したことが必要となります。相続人による寄与行為と故人の財産の維持増加との間に因果関係が認められなければならないのです。
以上のとおり,寄与分については,相続人が故人の財産の維持又は増加に対する貢献の程度によるものなので,一律に定められた基準はなく,個々の事案について検討することとなります。ご自身で思い当たることがあれば,お気軽に当センターまでご連絡ください。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。